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第 120話
ウマ吸い膏薬
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むかしむかし、源頼朝(みなもとのよりとも)が、『大黒(おおぐろ)』とよばれる名馬にまたがった時のことです。
何か気に入らないことがあったのか、大黒はたづなをひきちぎって走り出し、そのまま空へかけのぼりはじめました。
「だれか、あのウマをつれもどせ!」
頼朝が声をあげると、鎌倉(かまくら)からやってきていたケガや病気の治療係の一人が、
「かしこまりました。わたしが、ひきもどしてごらんにいれましょう」
と、名乗り出たのです。
この男は薬草などをねり合わせて薬を作る、膏薬練り(こうやくねり)の仕事をしていました。
膏薬練りは、腰につけていた布袋から自分がつくった膏薬を取り出して、指の先につけました。
そして空をかけのぼっていくウマの方へ指をのばしながら、ウマをにらみつけました。
すると大黒は急に足を止め、吸い込まれるように膏薬練りの指先にはりついたのです。
「おおっ、見事じゃ! なんともよくきく膏薬じゃ。して、その膏薬の名はなんともうす」
頼朝が感心しながらたずねると、膏薬練りは、かしこまりながら言いました。
「はい。この膏薬はわたしが工夫をこらしてさまざまな薬草をとりまぜて、ついこのあいだつくりあげた新しい膏薬です。まだ、名はありません」
すると頼朝は、
「それでは、『ウマ吸い膏薬』と名付けるがよい」
と、言って自分で命名書(めいめいしょ)を書き、膏薬練りに手渡したという事です。
おしまい
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