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第 143話
力和尚の力比べ
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むかしむかし、西方寺というお寺に、大変力持ちの和尚さんがいました。
ある日の事、和尚さんのうわさを聞いた相撲取りが、江戸からやって来て言いました。
「この西方寺の和尚と、力比べを所望いたす」
相撲取りは、よほどの力自慢なのか、太い青竹を力まかせにねじり上げて作った物を、たすきの代わりにしています。
その相撲取りの声に中から出てきた和尚さんは、不思議そうな顔で相撲取りに言いました。
「力比べですか? 西方寺の和尚とはわしの事じゃが、何かのお間違いではありませんか?」
和尚さんの体は、相撲取りに比べると背が小さくてやせっぽちです。
相撲取りは和尚さんを見て、
(なんだ? 一人で大木を運ぶ力持ち和尚がいるとの噂は、嘘だったのか?)
と、がっかりすると、青竹のたすきをはずして江戸へ帰ろうとしました。
すると和尚さんは、
「まあ、せっかく江戸から上州まで来たのだから、お茶でも飲んで行きなされ」
と、相撲取りにお茶をすすめました。
そして出てきたのは、和尚さん自慢のおいしいお茶と、お茶請けにクルミの実です。
それも固い殻がついたままの、大きなクルミでした。
「これは?」
クルミは普通、金づちで殻を割って食べるのですが、どこにも金づちが見あたりません。
相撲取りは、一体どうやって食べたらよいのだろうと、和尚さんを見ました。
すると和尚さんは親指と人差し指でクルミをつまみあげると、簡単にパリンと殻を割って、中身を食べたのです。
「なっ、なんと」
相撲取りも和尚さんの真似をしてクルミを割ろうとしましたが、どうやっても割れません。
(こっ、こんなはずは!)
相撲取りはそのうちに両手を使い、顔を真っ赤にして力を込めますが、固いクルミの殻には、ひび一つ入りません。
「どれ、わしが割ってやろう」
見かねた和尚さんは相撲取りからクルミを受け取ると、二本の指で簡単に割って見せました。
これには相撲取りも、すっかり降参して、
「おそれいりました。数々のご無礼、お許し下さい」
と、手をついて頭を下げると、あわてて江戸へ帰って行ったそうです。
おしまい
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