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第 271話
杭に化けたイタズラダヌキ
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むかしむかし、ある船着き場の近くにはたくさんの桜の木があって、お花見の時期になるとたくさんの花見客で一日中にぎわっていました。
花見客のおかげで船着場の船頭たちは大忙しでしたが、この船着場の近くに一匹のイタズラダヌキが住んでいたのです。
イタズラダヌキは、こっそり船着場にやって来ると、
(さて、今日はどの舟にするかな?)
と、川に飛び込んで舟をつなぐ杭に化けたのです。
「おや? こんな所に杭があったのか」
タヌキが杭に化けているとは知らない船頭は、その杭に渡し舟をつないで、お客たちを呼びに行きました。
するとその隙に杭に化けたタヌキは元の姿に戻って、流されていく渡し舟を楽しそうに見物するのです。
「あはははは。あの船頭、舟が流されたのに気づいて、青い顔で渡し舟を追いかけていくぞ」
こんな事が何度も続いたので、やがて渡し舟の数は少なくなり、にぎやかだった船着場はだんだんとさびれていったのです。
「ちくしょう。イタズラダヌキのせいで、まったく商売にならない」
「なんとか、イタズラダヌキをこらしめてやらないと」
困った船頭たちは集まって、イタズラダヌキをやっつける相談を始めました。
ある月夜の晩、三人の船頭が渡し舟の中になわや棒を隠して、ゆっくりとこいでいきました。
そして船着場に着くと、一人の船頭がわざと大きな声で言いました。
「ああ、弱ったな。舟をつなぎたいが、ちょうどいい杭がないぞ!」
するとそれを聞いたタヌキが川に飛び込んで、立派な杭に化けました。
突然、目の前に現れた杭を見て、船頭さんたちはお互いに目で合図をしながら言いました。
「おお、こんな所に、こんな立派な杭があったとは知らなかった。よし、さっそくこの杭に舟をつなごう」
三人の船頭は持っていた縄で杭をぐるぐる巻きにして、隠し持った棒でその杭をドンドン叩きました。
「このイタズラダヌキめ! そう何度も何度も、人間さまをだませると思っているのか!」
「二度と悪さが出来ない様にしてやるぞ!」
しばられたイタズラダヌキはタヌキの正体を現すと、泣いて船頭たちに謝りました。
「ごめんなさい! もう決して、杭に化けたりはしませーん! だから許してくださーい!」
そこで船頭たちは殴るのをやめると、タヌキに言いました。
「お前がイタズラをするおかげで、花見の客がうんと少なくなってしまった。もし、お前が花見客を呼び戻してくれたら、今度ばかりは助けてやってもいいぞ」
「わかりました。では花見の間は立派な桜に化けて、大勢の花見客を呼んで見せます」
こうしてイタズラダヌキは毎年花見の時期になると、とても立派な桜の木に化けてくれたのです。
おかげで花見客がどんどん来るようになり、この船着場は以前よりもにぎやかになりました。
でも時々、花見客のお弁当が無くなる事はありましたが。
おしまい
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