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第 306話
タコの足とクモの足
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むかしむかし、江戸のあるお寺に、和尚さんの身のまわりの世話をしている忠助(ちゅうすけ)という十三歳の小僧がいました。
この忠助は手足にイボがたくさん出来て、とても困っていました。
ある日の事です。
忠助は和尚さんのすすめで、目黒(めぐろ)の蛸薬師(たこやくし)にお参りに出かけました。
蛸薬師にお祈りすればイボが取れると、和尚さんに言われたからです。
蛸薬師に着いた忠助は、さっそく手を合わせて祈りました。
「もし、わたしの手足からイボを取ってくださいましたら、一生タコは口にしません。また、薬師さんへのお経を一日二十回ずつ唱えます。ですからどうぞ、イボを取ってください」
忠助はそう祈って、タコの絵馬をお堂におさめてきました。
そしてその日から忠助は、日に二十回ずつ一心にお経を唱えました。
するとわずか四日目には、手足のイボがすっかりなくなっていたのです。
忠助は大喜びでしたが、六日目の朝になるとまた手足のイボは元に戻っていたのです。
「そんな、どうして・・・。あっ!」
よく考えてみると、イボがなくなった次の日からお寺の用事が忙しくなったので、日に二十回唱える約束のお経を忘れていたのでした。
忠助はあわてて、再びお経を唱えました。
それも日に二十回ではなく、十倍の二百回、お経を唱える事にしました。
するとイボは少しずつ消えていき、百日ほどですっかりなくなったのです。
ある日、手足にたくさんのイボが出来て困っている大工が、蛸薬師にやって来ました。
ある人から、忠助の話しを聞いたのです。
大工さんは手を合わせると、
「どうか、わたしのイボを取ってください。イボが取れましたら、一生タコは口に・・・」
と、言いかけて、大工さんは考え直しました。
(待てよ。タコを口に出来ないのは、困りものだな。なにしろタコは、酒の肴(さかな)に最高だからな。ここはタコではなくて、他の八本足で)
そこで大工は、お願いの言葉を言い換えました。
「どうか、わたしのイボを取ってください。イボが取れましたら、一生、クモは口にしませんので」
後からそれを聞いた大工仲間は、あきれた顔で言いました。
「お前は、何を考えておるんじゃ。それでは反対に、薬師さんのばちがあたるぞ」
その通りで、大工さんの手足に出来ていたイボは、ますますひどくなったという事です。
おしまい
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