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第 309話
夕立ちをふらせたおじいさん
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むかしむかし、おじいさんが町で一匹のウナギを買ってきました。
「たまにはウナギを食べて、せいをつけんとな」
ところがそのうなぎを料理しようとしたら、おじいさんの手からウナギがつるりと逃げ出したのです。
「まっ、待て!」
おじいさんがウナギをつかむと、ウナギはまたつるり。
ウナギはつるりつるりと逃げていき、どんどん空をのぼっていきます。
「ウナギめ、逃がさんぞ!」
おじいさんも負けじと、ウナギと一緒に空へのぼっていきました。
すると雲の上に広い野原があって、一軒の大きな家が建っていました。
「ありゃ、ウナギを追いかけているうちに、天の国に来てしまった」
おじいさんが家の中をのぞいてみると、中から鬼が出て来ました。
「お前、ここへ何しに来た!」
「へい、実は・・・」
おじいさんは、ウナギを追いかけてここまで来た事を話しました。
すると鬼はにっこり笑って、おじいさんに言いました。
「なるほど、それはちょうどいいところへ来てくれた。実はここは人手不足でな、悪いが二、三日ここにいて、わしの仕事を手伝ってくれ」
「でっ、でも、わしは人を食うのは嫌じゃ」
「あはははは。心配するな。わしは鬼ではなくて、かみなりだ。これから娘を連れて、雨を降らしに行く。この時期は毎日夕立ちを降らさなくてはいかんので、いそがしくて困っていたんだ。さあ、さっそく出かけよう」
かみなりは七つのたいこをかつぐと、娘に火打ち石を、おじいさんには水の入ったかめを渡して雲の車に乗りました。
しばらく行くと、おじいさんの住んでいる村が見えてきました。
「今から夕立を降らせるのは、この村だ。娘が火打ち石を打ち、わしがたいこをたたくから、お前はそのかめの水をちょっぴり地上へまいてくれ」
かみなりが言うと、娘がさっそく火打ち石を打ちました。
すると稲妻が、ピカッと光りました。
次にかみなりが、たいこを叩きました。
するとゴロゴロゴロゴロと、ものすごい音がひびきわたりました。
「さあ、じいさんの番だ」
「よしきた」
おじいさんはかめの水を手ですくって、地上にぱっと投げました。
それはわずかな水でしたが、水は途中でどんどん増えていき、たちまち滝の雨になって地上に降りそそぎました。
「ほう、こりゃあおもしろい」
おじいさんは調子にのって、どんどん水をまきました。
ひょいと下を見ると、近所のおかみさんたちが大あわてで洗濯物を取り入れています。
道を歩いていた人も、あわてて家の軒下にもぐります。
「さて、ばあさんはどうしているかな?」
自分の家に目をやると、おばあさんはむしろに干した豆を急いでしまっているところでした。
「し、しまった。ほれほればあさん、早く豆をしまわないと豆がだめになってしまうぞ!」
おじいさんは、思わず大声でどなりました。
「ほれ、何をぐずぐずしている。早く早く、・・・あっ、転びおった」
おばあさんが転んで、むしろから豆が飛び散りました。
「だからいつも、ちゃんと前を見ろと言っているだろう。ほれほれ、はやく豆をひろって!」
おじいさんが大声でわめいていると、誰かに頭をたたかれました。
ペシン!
「あれ? ここはどこだ?」
なんと目の前には、おばあさんがこわい顔で立っていたのです。
「おじいさん、何をねぼけているんですか! まったく、いい年してみっともない!」
「へっ? ・・・今のは夢か」
昼寝をしていたおじいさんがあわてて飛び起きると、何とまわりはおしっこだらけです。
「し、しまった。雨ではなくて、しょうべんを降らせていたのか」
おねしょをしてしまったおじいさんは、恥ずかしそうに頭をかきました。
おしまい
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