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第33話

水の妖精

水の妖精
セルビアの昔話 → セルビアの国情報

 むかしむかし、あるところに、泳ぐのが大好きな男の子がいました。
 ある日、雨がふって川の水がふえたのに、いつものように一人で泳ぎはじめました。
 すると、ドドーッと流れる水が、男の子を押し流してしまったのです。
「助けてえ!」
 男の子がおぼれかけていると、川の底からユラユラと、浮きあがってきたものがありました。
 それは、水の国の妖精(ようせい)です。
 いつもは、おぼれ死んだ人を自分の城へつれていくのですが、男の子を見て、助けてやりたくなりました。
 一人でたいくつだったので、いっしょにくらそうと思ったのです。
 水の妖精は、波のゆりかごで男の子をねむらせると、そっとだいて帰りました。
 そして、水晶(すいしょう)のヘやの、水晶のベッドに寝かせました。
 それから水晶の柱のかげにかくれて、男の子のようすを見ていました。
 しばらくして、目をさました男の子は、
「あれ? ここはどこ?」
 あたりをキョロキョロと、見回しました。
 水晶のテーブルの上には、水晶のおもちゃがたくさんあります。
 男の子はしばらくの間、それで遊んでいましたが、けれど急に、
「あーん、あーん!」
と、泣きだしたのです。
 水の妖精は、そばへいって聞きました。
「ぼうや、どうして泣くの?」
「帰りたい! お家へ帰りたい!」
「でも、ここのほうがおもしろいわよ。こんなにすてきなおもちゃがあるもの」
「でも、家のほうがいい。帰りたいよう!」
 水の妖精はこまってしまい、夜、男の子がねむると、銀のへやへつれていきました。
 つぎの朝、目をさました男の子は、なにもかも銀でできているへやにビックリ。
 そして、銀のテーブルの上の銀のおもちゃで遊びはじめました。
 でも、すぐにあきてしまい、シクシク泣きだしました。
 水の妖精は、聞きました。
「ぼうや、どうして泣くの?」
「お兄さんやお姉さんと、遊びたいの!」
 やがて泣き疲れて寝てしまった男の子を、水の妖精は、今度は金のへやへ連れていきました。
 目をさました男の子は、金色のまぶしいへやにビックリ。
 金のテーブルの上の金のおもちゃで、しばらく遊びましたが、けれどもまた、すぐに泣きだしました。
「ぼうや、どうして泣くの?」
「お父さんや、お母さんに会いたいよう!」
「こんなにたくさんの金があっても?」
「そうさ、決まってるじゃないか」
 男の子は、お父さんやお母さんの笑顔を思い出しました。
 そして、みんなでいっしょに遊びにいった日のことを、水の妖精に話しました。
 水の妖精は、城の宝石を全部、男の子の前につみあげました。
 キラキラ光る、宝石の山です。
「これをみんなあげるわ。それでもお父さんやお母さんのほうがいいの?」
「うん。お父さんやお母さんのほうがいい!」
 水の妖精は、いっしょに暮らすのをあきらめました。
 男の子が眠ると、もとの川岸へ連れていきました。
 水の妖精は、また一人ぼっちかと思うと、悲しくて涙がポロリとこぼれおちました。
 男の子は目をさますと、急いで服を着ました。
「あれ? 水の妖精といたのに、夢だったのかな?」
 でも、ポケットには宝石がいっぱいはいっていました。
 男の子は、家へとんで帰りました。
「ただいま! ぼくだよ」
「まあ、おまえ、どこにいってたの!」
「心配したんだぞ!」
 お父さんもお母さんも、兄さんも姉さんも、かわるがわる男の子を強く抱きしめました。

おしまい

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