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第55話

イボンとフィネット

イボンとフィネット
フランスの昔話 → フランスの国情報

 むかしむかし、イボンという男が、どこかにうまい話はないかと思って海をわたっていきました。
 とある町について歩いていくと、それはそれは大きな家の前にでました。
 玄関(げんかん)の広さは、二十人の男が手をつないで通れるほどでした。
 天井(てんじょう)も、ものすごく高くて、四十人の男がつぎつぎと肩車したまま通れるほどでした。
 イボンがその玄関にたつと、おくから巨人があらわれてきました。
 巨人はイボンを見ると、
「なにか用か?」
と、聞きました。
 イボンは巨人を見ても、すこしもおどろかないで、
「なにか、しごとをさせてください」
と、たのみました。
「ああ、それなら、わしの下男(げなん)になったらどうだ。よく働いたらほうびをやろう。だがなまけたら、かんべんしないぞ。こんやのごちそうに、おまえをくってしまうからな。いいな」
 イボンは巨人の下男になって、いっしょうけんめい働きました。
 あくる朝はやく、巨人はイボンに、
「ウマ小屋のそうじをしておけ。おれが帰ってもまだよごれていたらどういうことになるか、わかっているな。それからもうひとつ、おれが帰ってくるまで、ぜったいにうちの中にはいってはいけないぞ。わすれるな」
と、いって、でかけていきました。
 はいってはいけないといわれると、はいってみたくなるものです。
 イボンはがまんができなくなり、巨人が見えなくなると、さっそく大きな大きな玄関から、家の中ヘはいっていきました。
 イボンは、さいしょのへやをのぞきました。
 かまどの上に大きなナベがかかっていて、銅(どう)がグツグツとにえていました。
 二番目のへやでは、銀(ぎん)がブツブツ音をたてていました。
 三番目のへやでは、金(きん)がとかしてありました。
「こいつはおどろいた。あの巨人は、金や銀や銅をたべるのか」
と、イボンは大声をあげました。
 四つ目のへやをあけました。
と、ここには美しい少女がいて、イボンを見てニッコリ笑いました。
 少女は巨人の娘で、フィネットといいました。
 フィネットは、心のやさしい娘でした。
「どんなしごとを、いいつけられましたの?」
と、イボンにたずねました。
「ウマ小屋をそうじしておけと、いわれました」
「あら、それはたいへんなしごとよ。あのウマ小屋には魔法がかかっているんですもの。いくらはいてもはいても、ほこりがまどからまいもどってくるの。なん時間かかっても、きれいになりっこありません。でもひとつだけ、うまくやれる方法があるのよ。ないしょで教えてあげましょう。それは、ほうきをさかさまに持つんです。柄(え)のほうを下にしてね。こうしてはいてごらんなさい。あっというまに、きれいになってしまいますから」
「ああ、そんなにはやくできちゃうんですか。それならなにも、いそぐことはありませんね」
と、いって、イボンは日がくれるまで、フィネットのへやでおしゃべりをしていました。
 あたりがうすぐらくなったころ、山のほうから雷のような音がひびいてきました。
「あっ、お父さんが帰ってきたわ!」
と、フィネットがさけびました。
 イボンはウマ小屋へとびこむと、ほうきをさかさまににぎってはきました。
 なるほど、みるみるうちに、ウマ小屋はきれいになりました。
 イボンをくってやろうと、たのしみに帰ってきた巨人は、イボンがウマ小屋をそうじしてしまったのを見ると、プンプンとおこりました。
「これじゃ、こんや、おれのくうものがないじゃないか! フィネットや、ちょっとおいで」
 フィネットがくると、巨人は、
「フィネット。かまわないから、あいつをナイフでころしてしまえ。おれがひとねむりしているあいだに、おいしく料理しておいてくれ」
と、いいつけて、いびきをかいてねむってしまいました。
 フィネットは、イボンをころすつもりなんかありません。
 そこでナベの中に水をいっぱい入れて、火にかけました。
 そしてその中に、イボンのうわぎやボウシやクツを入れました。
 それから塩をひとつまみと、タマネギを三きれほうりこみました。
 こうして料理のしたくができると、フィネットは玄関にいちばん近いへやへいきました。
 ナベの中でにえている銅を、丸い型に流しこんで、銅の玉をひとつこしらえました。
 それから二番目のヘやにいって、銀の玉をつくりました。
 三番目のへやでは、金の玉をつくりました。
 巨人がグッスリねているあいだに、フィネットとイボンは、三つの玉を持ってにげだしました。
 まもなく、巨人が目をさましました。
 大きなあくびをすると、ペコペコにへったおなかをなでながら、
「スープはできたかい。フィネットや」
と、いいました。
 すると、ナベの中のタマネギが、
「まだですわ、おとうさま」
と、こたえたのです。
 巨人は、またウトウトとねむりました。
 しばらくして目をさますと、おなかはまえよりもずっと、ペコペコになっていました。
「スープは、もうできたかね。フィネットや」
と、いうと、ナベの中の二つ目のタマネギが、
「まだですわ、おとうさま」
と、こたえました。
 三度目に、目をさましたとき、
「さあ、スープはもうできたろうな!」
と、巨人は大声でいいました。
 すると、三つ目のタマネギが、
「まだですわ、おとうさま」
と、いいました。
 四度目に目をさましたとき、巨人はさけびました。
「いくらなんでも、もう、できたろう!」
 こんどは、なんのヘんじも聞こえません。
 巨人はムックリとおきあがって、ナベの中をのぞきました。
 スープのなかに、イボンのうわぎとボウシとクツが見えました。
 けれども、イボンははいっていません。
 まもなく巨人は、フィネットとイボンが、いっしょににげだしたことに気がつきました。
 まっ赤になっておこった巨人は、一歩で十里(→約40キロメートル)もすすむクツをはいて、二人のあとを追いかけました。
 巨人はすぐに、イボンとフィネットを見つけました。
 イボンは走りながら、ふと、あとをふりむきました。
「あっ、あなたのお父さんがおっかけてくる!」
 それを聞いたフィネットは、銅の玉をうしろへ投げました。
 すると地面がポッカリとわれて、巨人の前に深い深い谷間ができました。
 巨人は、ちょっと足をとめました。
 けれども、すぐに大きな木を根こそぎぬいて、谷にわたしました。
 巨人はその木の橋をわたって、ドンドンと追いかけました。
「あっ、巨人の息が、首にかかってきた」
と、イボンがさけびました。
 そのとき、二人は海へつきました。
 フィネットが銀の玉を海へ投げると、たちまち船があらわれました。
 イボンとフィネットが船にとび乗ると、船は風に乗って、グングンとすすみました。
 巨人は海の中を、ジャブジャブと歩いて追いかけてきました。
 巨人が追いかけてきたので、大きな波がおこりました。
 二人をのせた船は、いまにもしずみそうです。
 フィネットは、巨人のそばに金の玉を投げました。
 すると、さかなのかいぶつがあらわれて、あっというまに巨人をのみこんでしまいました。
 そしてさかなのかいぶつは、でてきたときと同じように、またたくまに海の中へ消えてしまいました。
 イボンはフィネットを自分の国へつれて帰って、いっしょにたのしくくらしたということです。

おしまい

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