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第60話
不思議な五人の小人
アイルランドの昔話 → アイルランドの情報
むかしむかし、ある小さな村に、グリーシという若者が住んでいました。
グリーシは、いつも遠くへ旅がしたいと思っていました。
グリーシが村はずれの古いとりでの上で、ぼんやり海の向こうをながめていると、とりでの中から笑い声が聞こえてきました。
(何だろう?)
のぞいて見ると、たくさんの小人たちがいました。
親分らしい小人が、声を張り上げます。
「おれの馬! おれのたづな! おれのくら!」
すると小人の前に、馬が現れたのです。
(すごい、魔法の言葉だ)
グリーシも、さっそくまねてみました。
「おれの馬! おれのたづな! おれのくら!」
するとやっぱり、馬が現れました。
「こいつは、おもしろい」
グリーシは馬に乗って、小人たちを追いかけました。
小人たちは海辺につくと、さけびました。
「飛べ!」
すると小人たちの馬は、まるで羽が生えたかの様に空を飛びました。
グリーシも、同じようにさけびました。
「飛べ!」
同じように空を飛んだグリーシも、小人たちのあとを追いかけます。
空を飛んだ馬は、海も山もひとっ飛びです。
後ろからついてくるグリーシに気づいた小人たちは、下に見えるお城がフランスの王さまのお屋敷だと教えました。
「もう、こんなに遠くまで来てしまったのか!」
「いいか、グリーシ。おれたちについて来たからには、覚悟を決めてよく聞け。おれたちはあそこから、お姫さまをさらうのさ!」
「ええっ!」
「今日は、結婚式だ。お姫さまは嫌いな男と結婚させられるから、悲しんでいる。だから、助けてやるんだ」
人間の目には小人も馬も見えないらしく、無事にお城へ乗り込む事が出来ました。
中ではちょうど、結婚式の最中です。
「わあ、きれいなお姫さま」
グリーシはお姫さまをひと目見て、すっかり好きになってしまいました。
そこで、
「さらえ!」
と、言う小人の親分の声を聞くと、一番先にお姫さまをさらいました。
お姫さまをさらうと、空飛ぶ馬はアイルランドへ戻りました。
とりでにつくと、グリーシは小人の親分にたずねました。
「これから、お姫さまをどうするんだい?」
「決まっている。おれのお嫁さんにするのだ」
「なんだって!」
小人たちは無理矢理結婚させられるお姫さまを助けたのではなく、お姫さまを横取りに行ったのです。
「そんな事は、させるものか!」
グリーシはとっさに、胸の十字架をつき出しました。
小人たちも悪魔の仲間なので、十字架が大の苦手です。
「うー、苦しい。はやく逃げないと!」
小人たちは逃げ出しましたが、その時に小人の親分はお姫さまの頭をたたいて、のろいをかけたのです。
「ざまあみろ! お姫さまの口をきけなくしてやったぞ!」
小人が言った通り、お姫さまは口がきけなくなりました。
「大変だ。どうしたらいいのだろう?」
困ったグリーシは国中の医者にお姫さまをみてもらいましたが、どの医者にもお姫さまを治すことは出来ませんでした。
ある日、グリーシがとほうにくれてとりでの上で考えていると、また小人たちの声が聞こえてきました。
「グリーシのやつ、国中の医者にお姫さまをみせているそうだ」
「バカなやつだ。そんな事をしてもむだなのに」
「そうそう、治す方法は、たった一つしかないんだからな」
「ああ、あいつの家の入り口に生えている青い草を飲めば、一発で治るのにな」
「でも、そんな事さえわからずに、まごまごしてるぞ」
「まったく、人間なんてバカぞろいだ」
「あっはっはっは」
そう言うと小人たちは、どこかへ行ってしまいました。
「そうか! 家の前の青い草を、飲ませればいいのか」
グリーシはさっそく草をせんじて、お姫さまに飲ませました。
するとお姫さまは、死んだように寝てしまいました。
「本当に、声が出るようになるだろうか?」
グリーシは、心配でたまりません。
それから長い時間がすぎて、朝日がお姫さまの顔にふりそそいだ時、お姫さまの目を覚まして口を動かしました。
「グ、リ、イ、シ・・・」
お姫さまの口から、声が出たのです。
「声が出た! お姫さまの声が出た!」
喜ぶグリーシに、お姫さまはもう一度口を開きました。
「グリーシ。わたしは、あなたが大好きよ」
「お姫さま! よかった、本当によかった!」
それから二人は結婚して、幸せに暮らしました。
おしまい
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