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第74話

魔法の玉

魔法の玉
ドイツの昔話 → ドイツの国情報

 むかしむかし、司祭(しさい)からほんの少しのお給料をもらって、その日をやっと暮らしている貧乏な男がいました。
 男は奥さんと子どもを食べさせなくてはならないので、毎日毎日一生懸命(いっしょうけんめい)働きました。
 でも、何年たっても貧乏なままです。

 ある日男は、貯金(ちょきん)をはたいて隣の家から子ヒツジを一匹買いました。
 そして子ヒツジを市場に売りに行き、そのお金でメンドリを三羽買うことにしたのです。
 メンドリなら玉子を産んでくれるので、奥さんと子どもにひもじい思いをさせないですむだろうと考えたのです。
 男が子ヒツジを連れて森の道にさしかかると、木のかげから妖精(ようせい)が出て来ました。
 妖精は男を見あげて、こう言いました。
「今日、市場へ行っても子ヒツジは売れないよ。もし俺(おれ)に子ヒツジをくれたら、玉を一つやるけどな」
「玉なんか、いらな・・・」
と、男は言いかけましたが、妖精の玉なら、とても珍しい玉にちがいありません。
「いいよ、子ヒツジと玉を取り替えよう」
 男がそう答えると、妖精はどこかへ走って行って木の玉を持って来ました。
「この玉に『玉よ、ボウシをとっておじぎしろ』って言えばいいんだ。ああそれと、言うときは、戸じまりをきちんしろよ」
「わかった」
 男は子ヒツジを渡し、玉をもらって家に帰りました。

 男は家に帰ると、さっそくまどもドアもカギをかけてから、
「玉よ、ボウシをとっておじぎしろ」
と、言いました。
 すると玉はゴロゴロと転がりだして、パカッと二つに割れて、中からたくさんの妖精たちが出て来ました。
 妖精たちはテーブルに立派な食器を次々とならべると、ガチョウの丸焼きやパンにワインにフルーツなど、ごちそうをいっぱい用意したのです。
 こんなごちそうを見たのは、生まれて初めてです。
 男も奥さんも子どもも、食事の前のお祈りをするのも忘れて食べました。
 ごちそうをきれいに食べてしまうと妖精たちは後片付けをして、また玉の中に戻ってしまいました。
 この日から男の家族は、毎日ごちそうを食べることが出来ました。

 さて、その事を知った司祭は、男にこう言いました。
「その玉は、きっと悪魔(あくま)の玉だ。お前の給料をあげてやるから、悪魔の玉をわたしにあずけなさい」
 男は言われた通りに玉を渡しましたが、司祭は男のお給料をあげてはくれません。
 それどころか悪魔の玉と言ったくせに、毎晩お客をよんで魔法の玉のごちそうを食べさせているのです。
 暮らしに困った男は、今度はオスウシを二頭連れて森へ出かけて行きました。
 するとまた妖精が出てきたので、男は妖精に言いました。
「オスウシを二頭やるから、前の玉よりもいい玉と交換しろ!」
 男は司祭の事で怒っていたので、つい乱暴な言葉で言ってしまったのです。
 妖精は男とオスウシをジロジロ見て、
「 フン!」
 と、鼻で笑いました。
 そして前のより大きな玉を男に渡すと、二頭のオスウシを連れて森の奥へ消えてしまいました。

 男は大きな玉を持って家に帰ると、さっそく戸じまりをしてやってみました。
「玉よ、ボウシをとっておじぎしろ」
 大きな玉はゴロゴロと転がり、パカッと二つに割れました。
 でも出てきたのは、こんぼうを持った大きな巨人が二人です。
 巨人はこんぼうをふり上げると、男の家族をポカポカとなぐりました。
「わあ、痛い、痛い。やめてくれえ!」
 男も家族も、あまりの痛さに気絶してしまいました。
 しばらくして気がつくと巨人は玉の中に戻っていたので、男は司祭の家へ大きな玉を持って行きました。
「司祭さま、今度は前のよりも大きな玉でございます」
 男が言うと、司祭は喜んで部屋に招き入れました。
「ちょうど、お客さまが集まったところだ。すぐ見せなさい」
 男はすまして、
「玉よ、ボウシをとっておじぎしろ」
と、言いました。
 するとたちまち巨人が出て来て、司祭やお客をポカポカとなぐりはじめたのです。
「いたい! これこれ! なんとかしなさい!」
 すると男は、きっぱりと言いました。
「いいえ。前の玉を返してくださるまでは、やめません!」
「わかった、わかった! たなにあるから、持って行きなさい!」
 こうして妖精の玉は、男のもとへ戻りました。
 男は喜んで、友だちや親せきをまねいてごちそうをすることにしました。
 まどを閉め、ドアを閉めて、さっそく玉に言いました。
「玉よ、ボウシをとっておじぎしろ」
 玉は、ゴロゴロ転がり出しました。
 その時、おくれて来た友だちがドアを開けたのです。
 すると玉はゴロゴロと、開いたドアから外へ勢いよく転がって行きました。
 男も家族も友だちも親せきも、あわてて玉を追いかけましたが、玉はパカッと割れると、お皿やごちそうを持った妖精たちが飛び出して、そのままどこかへ逃げてしまいました。
 そして妖精たちは、二度と帰って来ることはありませんでした。

おしまい

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