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第104話

魔法の笛

魔法の笛
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 むかしむかし、たくさんのヤギを飼っているおじいさんがいました。
 おじいさんはヤギの世話をさせるために、一人の男の子をやといました。
 その男の子は、不思議な魔法の笛(ふえ)を持っていました。
 その魔法の笛は、それを聞いた者を踊らせる力があるのです。
 さて、おじいさんは男の子に、ヤギを森へ連れて行く様に言いました。
「いいか、しっかりヤギに食べさせるんだぞ」
 おじいさんはそういって、男の子を送りだしました。
 日が暮れると、男の子はヤギと一緒に帰って来ました。
 迎えに出たおじいさんは、ヤギを見てビックリです。
「おい、どうしたんだ? ヤギたちが、ヘトヘトになっているじゃないか。お前はヤギに、何を食べさせたんだ?」
「はい。おいしい若木の枝を、たっぷり食べさせましたよ」
 男の子は、そう答えました。

 次の日も、その次の日も、ヤギはヘトヘトになって帰ってきました。
 おじいさんは、心配でなりません。
 そこである日、こっそりと男の子の後をつけて行きました。
 おじいさんがやぶのかげに隠れてのぞいていると、男の子は若木の枝をたくさん切って、ヤギたちにやりました。
 ヤギたちはおいしそうに音を立てて、その若木の枝を食べ始めました。
「うむ。確かにちゃんと、若木の枝を食べさせているな。しかしどうして、ヤギたちはヘトヘトに疲れているのだ?」
 おじいさんが首を傾げていると、男の子は木の切り株に腰をかけて笛を取り出しました。
♪ピーヒョロロ、ピーヒョロロ
 笛の音が響いてくると、ヤギたちは食べていた若木の枝を放り出して踊り始めました。
 やぶに隠れていたおじいさんにも、その笛の音が聞こえて来ました。
 するとそれを聞いたおじいさんの手足が勝手に動き出し、おじいさんは踊りを始めたのです。
 おじいさんはやぶの中にいたので、ノバラのトゲにひっかかって着物がボロボロになりました。
 おじいさんは、泣きながら言いました。
「やめてくれ、やめてくれ」
 男の子が、答えました。
「やめたくても、笛がだまってくれません」

 家では、おばあさんがおじいさんの帰りを待っていました。
 おばあさんは、なかなか帰って来ないおじいさんを心配して、
「ちょっと、様子を見に行ってこようかね」
と、森へ出かけて行きました。
 森に行ってみると男の子が笛を吹いて、ヤギとおじいさんが踊りを踊っています。
「まあ、あんなところで踊りを踊ったりして!」
 そう言ったおばあさんの手足も勝手に動き出し、おばあさんもヤギやおじいさんと一緒に踊り始めました。
 すると今度は、なかなか帰って来ないおじいさんとおばあさんを心配して、息子が森に様子を見に行きました。
 森に行ってみると男の子が笛を吹いて、ヤギとおじいさんとおばあさんが踊りを踊っています。
「何だ? 何でこんなところで踊りを?」
 そう言った息子の手足も勝手に動き出し、息子もヤギやおじいさんやおばあさんと一緒に踊り始めました。
 今度は、お嫁さんが森に様子を見に行きました。
 そしてお嫁さんも、ヤギやおじいさんやおばあさんや息子と一緒に踊りを踊り始めました。
 今度は、まごが森に様子を見に行きました。
 そしてまごも、ヤギやおじいさんやおばあさんやお父さんやお母さんと一緒に、踊りを踊り始めました。
 やがて日が暮れると、みんなは踊りながら村へ帰りました。
 男の子の笛の音が、村中に響きます。
 それを聞いた村人たちの手足も、勝手に動き出しました。
 そしてとうとう村中が、大きな輪になって踊り出しました。
 こうして人間も、ヤギも、ウシも、ウマも、ネコも、ニワトリも、朝から晩まで踊り続けたそうです。

おしまい

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