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第119話
動物の言葉
セルビアの昔話 → セルビアの国情報
むかしむかし、あるところに、とても正直で働き者のヒツジ飼いがいました。
ある日の事、ヒツジ飼いがいつもの様にヒツジの世話をしていると、森の方からシュウーシュウーと不思議な音が聞こえて来ました。
「おや? 何だろう?」
ヒツジ飼いが音のする方へ行ってみると木が燃えていて、一匹のヘビが煙にまかれて苦しんでいます。
このままでは、ヘビは焼け死んでしまうでしょう。
ヘビはヒツジ飼いを見ると、苦しそうに叫びました。
「ヒツジ飼いさん。助けてください!」
「よし、待っていろ!」
ヒツジ飼いがヘビに長いつえを差し出すと、ヘビはつえを伝ってヒツジ飼いの腕にはいあがって来ました。
そしてヘビはヒツジ飼いの首に、しっかりと巻き付いたのです。
ヒツジ飼いはまっ青になって、ヘビを振り放そうともがきました。
「こら! 助けてやったのを忘れたのか!」
「大丈夫。怖がらないでください。わたしはヘビ王の息子です。父のご殿まで、わたしを連れて行ってください」
そこでヒツジ飼いはヘビを首に巻き付けたまま、ヘビの言う方へ歩き出しました。
ヒツジ飼いは長い間歩き続けて、やっとヘビのご殿の門までたどりつきました。
ヘビのご殿の門は、たくさんの生きたヘビをあんで作ってありました。
ヘビの王子がピューッと口笛(くちびえ)を吹くと、門はサッと開きます。
ヘビの王子は、ヒツジ飼いに言いました。
「これから、父のところへ行きましょう。
父はきっと、お礼に金や銀や宝石をあげようと言うでしょう。
でも、そんな物をもらってはいけません。
その代わりに、『動物の言葉がわかるようにしてください』と、頼むのです。
初めは嫌がるでしょうが、どうしてもと言えば望みをかなえてくれます」
さて、ヒツジ飼いとヘビの王子がご殿ヘ入って行くと、ヘビの王は涙を流して喜びました。
「息子や。良く帰ってきたな。森で火事があったと聞いて心配していたぞ」
「はい。その火事にあって焼け死にそうだったところを、この方に助けていただいたのです」
それを聞いたヘビの王は、ヒツジ飼いに向き直って言いました。
「人間よ。息子を助けてくれてありがとう。お礼を差し上げたいが、何が望みだね」
するとヒツジ楫は、ヘビの王子に言われた通りに言いました。
「はい、動物の言葉がわかる様にしてください」
「いや、それだけは、やめたほうがよい。
動物の言葉がわかる様になっても、もし、あなたがその秘密を誰かに話せば、あなたはたちまち死ぬ事になるのですよ。
望みなら、何か他の物をあげましょう」
「そうですか。
どうしてもいけないとおっしゃるのなら、動物の言葉はあきらめましょう。
金も銀も宝石も、他の物は何もいりません。
それでは、ごきげんよう」
そう言って、ヒツジ飼いは帰ろうとしました。
ヘビの王は、ヒツジ飼いを引きとめました。
「お待ちなさい。
あなたがそれほどまでに望むのなら、あなたの望みをかなえてあげましょう。
それでは、口を開きなさい」
ヒツジ飼いが口を開けると、ヘビの王はその中につばをはきました。
それから今度は、自分の口の中につばをはく様にとヒツジ飼いに言いました。
これを三回繰り返すと、ヘビ王は言いました。
「さあ、これであなたは、動物の言葉がわかります。
しかし、命が大切なら、どんな事があってもこの秘密を人に話してはいけません。
くれぐれも、気をつけるのですよ」
「はい。ありがとうございます」
ヒツジ飼いはヘビの王と王子に別れを告げると、ヒツジの待っている牧場へ帰りました。
間もなく二羽のカラスが飛んできて、そばの木にとまるとこんな事を話し出しました。
「知っているかい? あの黒ヒツジが寝ているところの事」
「ああ、黒ヒツジの寝ている下に、金貨や銀貨や宝物が埋まっているんだろう」
「そうそう。あたしらにはお金なんて何の価値もないけど、人間がこれを知ったら大喜びするだろうね」
これを聞いたヒツジ飼いは、すぐに主人に言いました。
「もしかするとこの下には、宝物があるかもしれませんよ」
そして二人が地面を掘ってみると、何と荷馬車(にばしゃ)にいっぱいの宝物が出てきたのです。
するとヒツジ飼いの主人は、ヒツジ飼いににっこり微笑んで言いました。
「わたしはもう年だから、お金なんて必要ない。
でも、お前の人生はこれからだ。
これで家を建てて結婚して、幸せに暮らしなさい」
こうしてヒツジ飼いは全ての宝物をもらって、家を建てて結婚しました。
そして今度は人をやとって、たくさんのヒツジやウシやブタの番をさせました。
ある日の事、お金持ちになったヒツジ飼いが奥さんに言いました。
「明日はわたしがお金持ちになった記念日だ。働いているヒツジ飼いたちにごちそうをしてやろう。だから酒や食べ物を、たっぷり用意しておくれ」
次の日、お金持ちになったヒツジ飼いは、奥さんと一緒にヒツジ飼いたちの小屋をたずねました。
そして山の様なごちそうを並べると、こう言いました。
「みんな、今日は食べて、飲んで、歌っておくれ。今夜はわたしがヒツジの番をするから、安心して楽しむといい」
そしてお金持ちになったヒツジ飼いは、久しぶりに牧場へ行きました。
さて、やがて真夜中になるとオオカミたちがやって来て、ヒツジの番をしている若いイヌに向かって話しかけました。
「おい、いつもの様にヒツジをもらうよ。もちろん、あんたにも肉をわけてやるからな」
すると、若いイヌたちは尻尾を振って答えました。
「ああ、いいとも。おいしそうなやつをたのむよ」
ところが、それを聞いた歯が二本しか残っていない年寄りのイヌが、若いイヌとオオカミにワンワンとほえました。
「なんて奴らだ! いいか、わしに歯が一本でも残っているうちは、ご主人さまのヒツジに指一本さわらせんぞ!」
動物の言葉のわかるお金持ちのヒツジ飼いは、この話を全て聞いていました。
夜が明けると、お金持ちのヒツジ飼いはやとっているヒツジ飼いたちに、
「あの年寄りのイヌは、大事にしてやりなさい。しかし若いイヌには、おしおきをしなさい」
と、言って、奥さんと二人でウマに乗って家に帰りました。
お金持ちのヒツジ飼いがオスウマに乗り、奥さんがメスウマに乗ってるのですが、どうした事かメスウマは遅れます。
それを知ったオスウマが、メスウマをせきたてました。
「どうした。もう少し早く歩けないのかい?」
するとメスウマは、こう答えました。
「だって、あなたは一人乗せているだけですけど、わたしは二人乗せているんですもの。
奥さんと、奥さんのお腹の中の赤ちゃんをね。
おまけにわたしのお腹にも、あたしたちの赤ちゃんがいるのよ」
ウマの話を聞いたお金持ちのヒツジ飼いは、うれしくなって笑い出しました。
それを見て、奥さんが不思議に思いました。
「何がそんなに、おかしいんですか?」
「いや別に、ちょっと笑っただけだよ」
「いいえ、何か訳があったんでしょう。その訳を教えてください」
「本当に、何でもないよ」
お金持ちのヒツジ飼いは言いましたが、奥さんは承知しません。
奥さんは家へ帰っても、しつこく訳を聞きたがりました。
そこでお金持は、
「わたしにはある秘密があって、もしお前に訳を話せば、その場でわたしの命はなくなってしまうんだよ」
と、言い聞かせました。
すると奥さんはあきらめるどころか、ますます話してくれとお金持をせめたてました。
そこでお金持ちのヒツジ飼いは覚悟を決めて、自分が死んだら入れてもらうかんおけを作らせました。
そしてかんおけが出来上がると、家の前へ置かせて言いました。
「それでは、かんおけに入ってから話してやろう。
何しろ言ったとたんに、わたしは死んでしまうのだから」
お金持ちのヒツジ飼いはかんおけの中に入ると、最後の思い出に辺りを見回しました。
するとその時、二本しか歯のないイヌが息をきらせてかけつけてきました。
そしてお金持ちのヒツジ飼いのまくらもとに座って、悲しそうになきました。
お金持はそれを見て、イヌにパンをやる様に言いつけました。
けれどもイヌは、パンには目もくれません。
そこへオンドリがやって来て、パンをせっせと突き始めました。
「この恥知らずめ! ご主人が死ぬっていう時に、パンなんか突いて」
イヌがオンドリをしかりつけると、オンドリはすまして答えました。
「はん。死にたい人は、死ねばいいのさ。
バカバカしい。
奥さんのわがままの為に、死ぬなんて」
それを聞いたお金持は、かんおけから起き上がって言いました。
「全く、その通りだ」
そしてわがままな奥さんを、ピシャリピシャリと叩きました。
それからは奥さんはすっかりおとなしくなって、笑った訳を二度と聞こうとはしなかったということです。
おしまい
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