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第122話
海の水はなぜからい
ドイツの昔話 → ドイツの情報
むかしむかし、ある村に、お金持ちの兄と貧乏な弟が住んでいました。
クリスマスの晩、弟のハンスは兄さんのラルスの家へ行って頼みました。
「兄さん。すまないが、食ベ物を少し分けてもらえないか?」
それを聞くと、兄さんは冷たく言いました。
「おいおい、またか。
全く、困った奴め。
いいか、食べ物を分けるのもこれで最後だぞ。
もう二度と、ここには来ないでくれ。
ほら、このブタ肉を持って、とっとと地獄へでも行ってしまえ」
ハンスはそのブタ肉を受け取ると、
「ありがとう兄さん。その通りにしますね」
と、言って、本当に地獄へ行くことにしました。
ハンスが地獄を探して歩き回っていると、丘で穴を掘っているおじいさんに出会いました。
「おや、もうすぐ日が暮れるというのに、どこへ行くのだね?」
おじいさんに聞かれて、ハンスが答えました。
「地獄へ行く道を探しているんです。兄さんが、この肉を持って地獄へ行けって言うもんで」
「ほう、地獄か。それなら、この穴をおりて行くといい」
そこでハンスはおじいさんが掘っている穴の中に入り込み、ドンドン下へおりて行きました。
しばらく行くと道のまん中で、お尻に尻尾が生えた悪魔がたき火をしていました。
悪魔はハンスに気づくと、そばへ寄って来て尋ねました。
「おい人間。お前、どこへ行くつもりだ?」
「地獄へさ」
「ここが、その地獄さ。それで、何をしに来たんだ?」
「このブタ肉を、買ってもらおうと思って」
すると悪魔は、飛び上がって喜びました。
「それはちょうどいい。ブタ肉を焼いて食おうと思っていたところさ」
悪魔はそう言うと、石うすを出しました。
「ブタ肉とこれと取り替えようぜ。
これは、魔法のうすさ。
欲しい物を心の中で思うだけで、何でも出てくる。
そしていらなくなったら、こう言えばいいんだ」
そして悪魔は、ハンスに何かをささやきました。
さて、石うすを家に持って帰ったハンスは、魔法のうすにロウソクや食べ物をたくさん出させました。
それを見て、奥さんや子どもたちは大喜びです。
やがて、このうすの事を知った兄さんが、ハンスの家にやって来ました。
「ハンス、そのうすを売ってくれ」
「いいですよ。あと半年したら、売ってあげますよ」
それから半年後、弟から大金でうすを手に入れた兄さんは、
「うすよ、うす。スープとニシンを出してくれ」
と言って、うすを回しました。
するとうすから、スープとニシンがどんどん出て来ました。
けれど止め方を知らないので、スープとニシンが家から洪水(こうずい)の様にあふれ出したのです。
「ハンス頼む、このうすを止めてくれ! うすは返すから」
こうしてうすは、またハンスの物になりました。
そしてハンスは、うすのおかげですっかり大金持ちになったのです。
ある時、塩を運ぶ船の船長が、ハンスの家を訪ねて来て言いました。
「ハンスさん、何でも出て来るという魔法のうすを、わたしにゆずってくれませんか? お金はいくらでも出しますから」
「いいですよ。あと半年したら、売ってあげますよ」
それから半年後、大金でうすを手に入れた船長は、海の真ん中でうすに塩を出せと言いました。
するとうすから塩がドンドンあふれて、船は塩の重さにうすごと海に沈んでしまいました。
うすは海に沈んでしまっても、塩を出すのをやめません。
それで今でも、海の水はからいのです。
おしまい
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