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第129話
くねくねお化け
インドの昔話 → インドの情報
むかしむかし、インドの小さな町に、とても人の良い床屋が住んでいました。
この床屋はとても貧乏だったので、おかみさんと二人で、いつもお腹を空かせていました。
でも、床屋は決してなまけ者ではありません。
それどころか、仕事は、とても忙しかったのです。
お客は毎日、たくさんやって来ました。
けれども人の良い床屋は、お客が暮らしが大変だという話をすれば、つい、
「そうですか。それでは料金は、ただにしましょう」
と、言ってしまうのです。
お客の方も、それにつけこんで、いつもお金がないような顔をして、毎回ただで頭をからせました。
それに腹を立てたおかみさんは、ある日とうとう、だんなさんをどなりつけました。
「あんたって人は、よくもまあまあ、毎回毎回ただ働きをして、なんてお人よしなんだろうねえ。そんな人は、もう家にいなくてもけっこうだよ。今すぐ、ここから出て行っておくれ。お金を稼いでこないなら、二度と家には入れないよ!」
そこで床屋は仕方なく、ハサミやカミソリや鏡などの商売道具をつめた袋をかついで、家を出て行きました。
そして床屋の仕事をしながら、あちらの村、こちらの町と、歩き回りました。
けれども、あいかわらず、お客が、
「暮らしに、困っているのです」
などと言えば、つい、料金をただにしてしまうのです。
「はあ、これじゃ、いつまでたっても、家には帰れないなあ」
床屋は、お腹を空かしながら旅を続けていました。
さて、ある日の夕方の事。
床屋は大きな森の中で、太い枝をかさの様に広げた大きな木を見つけました。
「今夜は、この木の下で休んでいこう」
床屋は木の下で、ごろりと横になりました。
ところが、この大きな木は、『くねくねお化け』という、怖いお化けのすみかだったのです。
そうとは知らない床屋は、
「どうしておれは、こんなに運が悪いんだろう。何とか、良い運が向いてこないかなあ」
などと、ぼんやり考えているうちに、いつの間にか、ぐうぐうと眠ってしまいました。
そのいびきが、木の上のくねくねお化けに聞こえたのです。
「おや? この真夜中に、あんなもの凄い音を立てるのは何だろう?」
お化けは、そーっと下をのぞいてみました。
「おおっ、うまそうな人間が寝ているぞ。よし、久しぶりに人間を食べるとするか」
お化けは、大喜びで舌なめずりをしました。
そして、お化けの舌なめずりの音で目を覚ました床屋は、ふと上を見てびっくり。
恐ろしいお化けが、ずるずると木のみきを滑り降りて、たちまち床屋の前に立ったのです。
そのお化けの大きな体は、まるで曲がりくねった木のようです。
お化けは床屋に、おそろしい声で言いました。
「やい、人間。おどろいたか! おれはこの森に住んでいる、くねくねお化けさまだ。これからお前を食べてしまうから、覚悟しろ!」
床屋はガタガタと震えながら、何とかお化けをだませないものかと考えました。
そしてお化けが大きな口を開けて、床屋を飲み込もうとしたその時です。
「やあ、お前さんに会えて、ほんとにうれしいよ」
と、床屋が言ったのです。
急に親しげに声をかけられたお化けは、目をパチパチさせてたずねました。
「どうして? どうして、おれに会えたのが、そんなにうれしいんだ?」
「あはははは。こう見えても、わしはお化け狩りの名人でね。お化けを捕まえようと思って、ここで寝ているところへ、ちょうどお前さんがやって来たってわけなんだ」
「お化け狩り名人だって? 何をいう。我々お化けが、そう簡単に捕まってたまるか」
そこで床屋は持っていた袋を、お化けに見せて言いました。
「この中には、お前さんの仲間が押し込められているんだ。みんな、このわしが捕まえたやつだぞ」
「うそをつけ」
「うそなもんか。さあ見せてやろう」
そういって床屋は、大事そうに袋の中から鏡を取り出すと、さっとお化けの前に突き出しました。
「さあ、ここにいるのが、お前さんの仲間だぞ」
すると、鏡に映った自分の姿を捕まっているお化けと勘違いしたお化けは、恐ろしさに震え上がって、へなへなと座り込んでしまいました。
「ほっ、本当だー! お化けが捕まっている。・・・おっ、お願いだから、袋に入れるのだけは、かんべんしてくれ。そのかわり、お前の言う事は、何でもきいてやるから」
(しめたぞ。おれにも、いよいよ運が向いてきたぞ)
床屋は大喜びですが、でも、わざと考えるふりをして、
「うーん。そこまで言うのなら、助けてやってもいいが、それにはまず、金貨を千枚持って来い。それから明日の晩までに、おれの家の庭に倉をたてて、その中に米の袋をぎっしり積み上げろ」
「わかった。約束する」
お化けは逃げるようにして、どこかへ消えてしまいました。
「あっはっはっはっ。お化けのやつ、うまくだまされよった。さて、お化けが戻って来るまで、ひと休みしようか」
と、木の下で横になろうとした時です。
ごぉーーっ!
と、いう、ものすごい音と一緒に、さっき出かけたお化けが、もう帰って来ました。
そしてお化けは、持ってきた大きな袋を床屋の前にドシン! と置いて、
「さあ。金貨が、ちょうど千枚だ」
袋を受け取った床屋は、もう一度、念をおしました。
「明日の晩は、きっと、倉をたてに来るんだぞ。約束を破ったら、この袋に押し込んでやるからな」
「わかった。約束は必ず守る」
お化けは、震えながら消えてしまいました。
さっそく床屋は重い金貨の袋を背負って、森を出て行くと、暗い夜の道を家に向かって帰って行きました。
次の日の朝、ようやく家に着いた床屋を見たおかみさんは、床屋の顔を見ると、涙を流して喜びました。
あんまりひどい事を言ったので、床屋がもう帰って来ないのではないかと、毎日心配しながら待っていたのです。
床屋はさっそく、千枚の金貨をおかみさんに見せました。
するとおかみさんは、うたがいぶかそうに言いました。
「どうやって、こんなにたくさんの金貨を手に入れたんだい? まさか、人の物を泥棒したんじゃないだろうね?」
そこで床屋は、くねくねお化けの事を説明しましたが、おかみさんは信じてくれません。
「まあ、今夜になればわかることさ。そのかわり、何がおこっても、腰を抜かしたりするなよ」
さていよいよ、その日の晩になると、突然庭の方で、ものすごい音がしました。
がら、がら、がら。
どすん、どすん、どすん。
二人が窓からのぞいて見ると、くねくねお化けが、もう一人のもっと大きいお化けと一緒に、倉をたてていました。
くねくねお化けは床屋に気がつくと、大声で言いました。
「おれのおじさんが、手伝いに来てくれたんだ」
二人のお化けは、たちまち庭のまん中に立派な倉を作りあげました。
そして、どこからか山のように米の袋を背負ってくると、見る見るうちに、倉の中に高くつみ上げてしまいました。
「さあ。これで、お前との約束は全部果たしたぞ。約束通り、おれたちを捕まえないでくれよ」
くねくねお化けは、そう言うが早いか、おじさんのお化けと一緒に、さーっと姿を消しました。
おかみさんは立派な倉を見上げて、ただもうびっくりです。
「お化けに倉をたてさせるなんて、あんたも大したもんだねえ」
こうして貧乏な床屋は、このあたりで一番の大金持ちになりました。
でもあいかわらず床屋の仕事を続けて、毎日忙しく働いていました。
だけど今度は、床屋が料金をただにしてやっても、おかみさんはにこにこ顔で怒ろうとはしませんでした。
おしまい
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