|
|
福娘童話集 > きょうの世界昔話 > その他の世界昔話 >なわ一本で大金持ちに
第138話
なわ一本で大金持ちに
スウェーデンの昔話 → スウェーデンの情報
むかしむかし、ある大きな湖のそばに、貧しいお百姓さんが三人の息子と住んでいました。
そのお百姓さんが病気で死んだので、のこった財産を三人でわける事になりました。
一番上の息子は、
「おれは、家をもらうよ」
と、さっさと家をとってしまいました。
「それならおれは、家の中の物をもらうよ」
二番目の息子は、家具や道具を全部とりました。
「ぼくは、何をもらえるの?」
一番下のぺールが言うと、兄さんたちはわらって言いました。
「知らないよ。そこらをさがせば、何か見つかるだろう」
しかし、たいした物は何もありません。
あるのは、庭に落ちていたなわが一たばぐらいです。
「なわか。・・・でもこれだって、何か役に立つさ。じゃあ兄さんたち、さようなら」
ぺールはなわを持って、家を出て行きました。
湖のほとりまでやって来たペールは、なわを見ながら考えました。
「このなわだけで、どうやって暮らそうか?」
すると近くの木の枝に、リスがやってきました。
「そうだ、なわで動物を捕まえよう。動物の皮を売って、お金をもうけるんだ」
ペールはなわでワナをつくると、リスを捕まえました。
「よし、こいつを殺して、皮をはいで・・・。だめだ」
ペールには、かわいいリスを殺す気にはなれません。
そこでペールは木の枝でかごを作って、中にリスを入れました。
今度は、草むらからウサギが飛び出してきました。
「よし、こいつも捕まえてやろう」
ペールはなわで、ウサギも捕まえました。
このウサギも、かごの中に入れました。
「もう、獲物はいないかな?」
ペールが探していると、岸辺のやぶの中から、
ズシン、ズシン!
と、大きな足音が聞こえてきました。
行ってみると、それは大きなクマです。
クマは近くのほらあなにもぐりこんで、いねむりをはじめました。
「よし、あのクマも捕まえよう。でも、それには丈夫なつながいるぞ」
ペールはなわをより合わせて、太いつなを作りました。
ちょうどその時、湖に住んでいる妖怪のネックが、水から頭を出してぺールを見つけました。
ネックはペールの様子を、じっと見ています。
「あの長いつなを、何に使うのだろう?」
ネックはすみかにもどると、息子に言いました。
「息子よ、岸辺にいるやつが何をしているのか、聞いてこい」
そこで息子は水面にあがると、ペールに声をかけました。
「おい、何をしてるんだい?」
声をかけられたペールが振り返ると、そこには妖怪の子どもが立っています。
(ははあーん、こいつは妖怪ネックの子どもだな。それなら用心しないとな)
ネックは人間を湖に引きずり込む妖怪なので、うかつに返事をすると大変な事になります。
ちょっと考えたペールは、ネックの子どもに言いました。
「この湖をしばる、丈夫なつなを作っているのさ」
「えっ! 湖をしばるの?」
「そうさ。もうすぐ完成するよ」
おどろいたネックの子どもは、いそいで父さんネックに知らせました。
「そいつは大変だ。お前、もう一度行って、あいつを木登り競争にさそえ。そしてあいつが疲れたところを、水の中へ引きずり込むんだ」
「うん、わかった」
ネックの子どもはぺールのところへ行くと、近くの木を指さして言いました。
「おいらと、木登り競争をしないか?」
「うーん、今は仕事中でいそがしいから、かわりに小さい弟でいいかい?」
「いいとも」
するとぺールは、捕まえていたリスに言いました。
「おい、小さい弟。ぼくの代わりに、木登り競争をしておくれよ。じゃあ、よーい、ドン!」
ペールが手を離すと、リスはあっという間に木のてっぺんまでかけ登りました。
ネックの子どももがんばったのですが、リスの勝ちです。
負けたネックの子どもがしょんぼり湖に帰ると、父さんネックが言いました。
「今度は、かけっこで勝負だ。あいつが疲れたところを、水の中へ引きずり込め!」
「うん、わかった」
ネックの子どもはペールの所へ行くと、森の広場をさして言いました。
「今度は、かけっこをしよう」
「うーん、今は仕事中だから、かわりに中くらいの弟でもいいかい?」
「いいとも」
ぺールはつかまえていたウサギに、耳うちをしました。
「いいかい、逃がしてやるから、つかまらないように一生懸命走れよ。よーい、ドン!」
はなされたウサギは、すごいスピードで走っていきました。
ペールの子どももがんばったのですが、とてもウサギには勝てません。
「父ちゃん、また負けちゃったよ」
「何! また、負けたか。うーん、それなら今度は、すもうで勝負だ。あいつを投げ倒して、そのまま水の中へ引きずり込め!」
「うん、わかった」
ネックの子どもはペールの所へ行くと、言いました。
「ねえ、もう一回だけ。今度はすもうで勝負だ」
「うーん、今は仕事中だから、かわりにぼくのおじいさんでもいいかい」
「いいとも」
「おじいさんなら、ほら、あそこで寝ているよ。もし起きなかったら、お尻をけり飛ばしてもいいから」
ネックの子どもはほらあなに行くと、寝ているクマに言いました。
「ねえ、すもうをしようよ」
しかしいくら呼んでも、クマは起きません。
そこでネックの子どもはクマのお尻を、思いっきりけり飛ばしました。
するとクマは怒って、ネックの子どもを湖に投げ飛ばしました。
投げ飛ばされたネックの子どもは、泣きながら父さんネックに言いました。
「あーん、父ちゃん、もうだめだよ。あの子の小さい弟や、年寄りのおじいさんにも負けるんだ。これならあの子と何やっても、絶対に勝てないよ」
「そうか。それじゃ、どうしたら湖をしばらないでくれるか、ていねいに聞いてこい」
「うん、わかった」
ネックの子どもはおそるおそる、ぺールのところへ行きました。
「おや? また来たな。まだ何かやる気かい?」
「いいえ、今度はちがいます。・・・あの、どうしたら湖をしばらないでくれるか、聞きに来たのです」
「そうか。じゃあ、このぼうしにいっぱいの金貨をくれたら、そっとしといてあげるよ」
「ぼうしにいっぱいの金貨ですね」
ネックの子どもはさっそく、金貨を取りに帰っていきました。
「よし、いまのうちに」
ぺールは急いで、地面に深い穴をほりました。
それからぼうしに大きな穴を開けて、地面の穴の上におきました。
しばらくすると、ネックの子どもが金貨の入った袋を持ってきました。
「では、ぼうしに金貨を入れますね」
チャリーン、チャリーン、チャリーン、チャリーン・・・。
ネックの子どもがぼうしに金貨を入れますが、いくら金貨を入れてもぼうしはいっぱいになりません。
「おかしいな、金貨が足りないぞ」
ネックの子は、金貨の袋を取りにもどりました。
そして何回何回もぼうしの中に金貨を入れましたが、ぼうしはいっぱいになりません。
とうとうネックの子どもは、泣きながら言いました。
「もう、これでかんべんしてよ。金貨これでおしまいなんだ」
「そうか。じゃあ、かんべんしてやろう」
こうしてたくさんの金貨を手に入れたぺールは、家へ帰りました。
ペールの持っている金貨を見て、二人の兄さんはびっくりです。
「お前、どうやってこんな大金を、手に入れたんだい?」
ぺールは、すまして答えました。
「このなわでリスやウサギを捕まえて、それから湖に行ったんだ。それでこの金貨を手に入れたんだ」
「ええっ! たったそれだけで!?」
「うん、そうだよ」
「たのむ! そのなわをくれ! 家や家具は全部お前にやるから」
「いいよ」
兄さんたちはペールからなわを受け取ると、喜んで出かけて行き、二度と帰ってはきませんでした。
さて、こうして家と家具と大金を手に入れたぺールは、可愛いお嫁さんをもらって幸せに暮したということです。
おしまい
|
|
|