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第144話
マホガニーの子ども
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むかしむかし、ある満月の夜、女の人が森へ水をくみに行きました。
「まあ、なんてきれいなお月さまかしら」
女の人は森に入って、ふと一本の木を見つけました。
「まあ、マホガニーの木だわ! しかも、実がなっている!」
女の人は、飛びあがって喜びました。
マホガニーの木には古い言い伝えがあって、数十年に一度実る実を持っていると、子どもが出来るというのです。
「わたしには、子どもが出来なかった。でも、このマホガニーの実で、わたしもお母さんになれるんだわ」
女の人は木に登ると、きれいな丸い実を二つもぎ取りました。
そしてその実を家に持って帰ると、大きなつぼの中に入れました。
そして女の人は、毎日祈りました。
「神さま、どうか子どもをお授けください」
次の満月の夜、女の人がいつもの様に神さまへ祈っていると、マホガニーの実を入れていたつぼから子どもの泣き声が聞こえてきました。
「もしかして!」
女の人はドキドキしながら、つぼのふたをとってみました。
すると中から元気な男の子と、きれいな女の子が出てきたのです。
「まあまあ。なんて、可愛いのでしょう!」
二人の子どもはすくすくと育ち、お母さんになった女の人はとても幸せでした。
ある夜の事、女の人が森へ水をくみに行こうとすると、二人の子どもが言いました。
「お母さん、ぼくも手伝うよ」
「お母さん、わたしも手伝うわ」
「ありがとう。でも森は危ないから、気をつけてね」
女の人はそう言うと、二人の子どもを連れて森の泉へ行きました。
そして泉の水をくもうとすると、女の子が言いました。
「お母さん。あの水の中のきれいな物を、取ってちょうだい」
「なあに? 何もないじゃないの。それとも、これの事?」
女の人は魚を捕まえて、子どもたちに見せました。
「ちがうよ。ほら、あのきれいな物だよ」
今度は、男の子が言いました。
女の人は泉をじっと見つめましたが、何の事かわかりません。
「きれいな物って、何かしら?」
女の人は泉の中を歩き回って、一匹の赤ちゃんワニを捕まえました。
「これの事? お前たちの欲しい物は?」
「ちがうよ。こんな物じゃないよ」
女の人は、今度はヘビの赤ちゃんを取って来ました。
「これでしょう?」
「ちがうよ。そんな怖い物じゃないよ」
子どもたちは何を取っても違うというので、女の人はとうとう怒り出しました。
「もう、わけのわからない事ばかり言って、お母さんを困らせないで! さあ、もう水はくんだし、家に帰りましょう」
ところが子どもたちは、帰ろうとしません。
ただ、泉の中のきれいな物を取ってと、繰り返すばかりです。
「そんな事を言っても、何を取っていいかわからないじゃないの。お母さんは、ご飯の支度があるの。もう帰ります」
女の人が帰りかけると、子どもたちは泣きながら言いました。
「嫌だよ、絶対に取ってよ」
「そうだよ。取ってよ」
「もう、お前たちみたいな分からず屋は、お母さんは知りません! ・・・やっぱり、マホガニーの子だわ」
女の人が『マホガニーの子』と言ったとたん、二人の子どもは大声で泣き出しました。
泣きながら走って家に帰り、家の中に入ってもまだ泣いていました。
女の人があわてて帰ってみると、男の子が言いました。
「お母さん、どうしてぼくたちの事を『マホガニーの子』だなんて言ったの?」
女の子も、泣きながら言いました。
「そうよ。わたしたち、お母さんが大好きなのに。お母さんが『マホガニーの子』と言ったから、お別れしなくちゃならないわ」
そして二人の子どもは、泣きながら家を飛び出しました。
「待っておくれ、お母さんを許しておくれ。もう二度と、あんな事は言わないから」
女の人も泣きながら、子どもたちを追いかけました。
子どもたちは走って走ってマホガニーの木にたどり着くと、二人とも木に登って元のマホガニーの実に戻ってしまいました。
それを見た女の人は、泣きながら帰るしかありませんでした。
帰る途中、女の人がさっきの泉に寄ってみると、水面にきれいな月がうつっていました。
それを見て、ようやく女の人は気づきました。
「ああ、子どもたちが欲しがっていたのは、この月の事だったのね」
女の人の泣きながら家に帰り、家に帰ってもずっと泣いていました。
おしまい
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