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第146話
海に落ちた財布
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むかしむかし、ある国に、とても貧乏で困っているヌーイという男の人がいました。
そのヌーイが、知り合いのところにお金を借りに行きましたが、
「ふん。大事な金を、誰が貸すもんか」
「ほかを頼みな」
と、冷たい返事ばかりです。
「ああ、どうしたらいいんだろう」
この時、ヌーイはふと、子どもの頃から仲の良かった友だちの事を思い出しました。
「そうだ、あいつがいた。あいつの家は金持ちだから、きっと助けてくれるにちがいない」
ヌーイはさっそく出かけると、その友だちに頼みました。
「すまないが、お金を貸してもらえないか?」
「ああ、いいとも」
友だちは、すぐにお金を貸してくれました。
「ありがとう。助かるよ」
でもヌーイは、心の中でこんな事を考えていたのです。
(思ったよりも、大金を貸してくれたな。・・・よし、このお金を持って、外国へ逃げてしまおう。そうすれば、お金を返さなくてもいいからな)
ヌーイは外国へ行く船に乗ろうと、港へやってきました。
ところが船に乗り込む途中、
ポッチャーン!
と、海に財布を落としてしまったのです。
そしてその財布は、ちょうどそこにいた大きな魚がエサと間違えて、パクリと飲み込んでしまいました。
次の朝、お金を貸してくれた友だちの召使いが魚取りのアミを投げると、偶然にもヌーイの財布を飲み込んだ魚がかかったのです。
魚のお腹から財布が出てきたので、召使いは魚と財布を主人に見せました。
「これは大変だ。ヌーイが、財布を落としたんだ」
それから少しして、ヌーイがまたお金を借りにやって来ました。
「お願いだ。お金をなくして、困っているんだ。もう一度、お金を貸してくれないか。きっと返すから」
「うん、いいよ」
友だちは魚から出てきた財布の事は言わず、別のお金を貸してやりました。
この時ヌーイは、心の中で思ったのです。
(お金をなくしたのは、ぼくが悪い心を持っていたからだ。
神さま。
どうか、このやさしい友だちのお金を、二度となくしたりしませんように。
そしていつかきっと、友だちにお金を返せる時が来ますように。
死ぬ気でがんばりますから、どうかわたしの商売を成功させてください)
それからヌーイは借りたお金を元手に商売を始め、数年後にはお金持ちになりました。
お金持ちになったヌーイは友だちの所へ行って、友だちに借りたお金を返しました。
「本当に、ありがとう。
あの時、きみが二回目のお金を貸してくれなかったら、今のぼくはなかったよ。
実は一回目にお金を借りた時、ぼくはとても悪い事を考えていたんだ。
借りたお金を持って、外国へ逃げ出してしまおうとね。
ところがお金をなくしたぼくに、きみはまたお金を貸してくれた。
その時ぼくは、神さまに祈ったんだ。
二回もお金を貸してくれた親切な友だちに、お金を返せる日がきっと来ますようにって。
そして、きみの貸してくれたお金を元手に商売がうまくいって、どんどんお金が増えていった。
だからこうして、最初に借りた分と二回目に借りた分のお金を返しに来る事が出来たんだ」
それを聞いて、友だちは言いました。
「ぼくもきみに、言う事があるんだ。
きみがなくした財布は、実はぼくが預かっているんだ。
だからその分は、返してもらわなくていいんだよ。
それにしても、きみの商売が成功して本当によかったね」
それから二人は、いつまでも仲良く助け合ったそうです。
おしまい
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