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第149話
星のひとみ
フィンランドの昔話(トペリウス民話) → フィンランドの情報
むかしむかし、あるクリスマス・イブの事です。
トナカイの引くソリが、雪山を走っていました。
前を進む大きなソリには大勢のラップ人(→スカンディナヴィア半島北部のほぼ北極圏内に住む人々の総称)が乗っていて、その後ろから引っぱられる小さなソリには赤ん坊を抱いたお母さんが乗っています。
そのソリの一行が、突然現れたオオカミの群れに襲われたのです。
オオカミにびっくりしたトナカイが急に走り出したため、ソリは激しくゆれると一人の赤ん坊をふり落としました。
雪の中に一人取り残された赤ん坊は、たった一人で雪の中からじっと夜空にきらめく星を見つめていました。
その時、夜空のきらめく星の光が、赤ん坊のひとみに宿りました。
そのすぐあと、赤ん坊のひとみの光によばれたかの様に、赤ん坊のそばを通りかかるソリがあったのです。
そのソリは、フィンランド人のお百姓のソリでした。
お百姓は赤ん坊を拾って帰ると、おかみさんに渡しました。
「ほら。クリスマスの贈り物だよ」
「まあ、素敵。なんて可愛い女の子なの。わたしたちには男の子しかいないから、あの子たちも妹が出来て、さぞ喜ぶでしょう」
赤ん坊は、とりわけ美しくかがやくひとみを持っていたので、『星のひとみ』と名づけられました。
星のひとみが三歳になる頃、おかみさんはこの少女の目が特別な力を持っている事に気づきました。
ある日、ふぶきが荒れ狂っている中、星のひとみがちょっと外へ出ると、ふぶきがぴたりと静まったのです。
別の日には、家に泊めてやった旅の男が、おかみさんの大切にしている金の指輪を盗んだ事がありました。
みんなはその男の服や持ち物をくまなく調べましたが、金の指輪は見つかりませんでした。
その時、星のひとみがこう言ったのです。
「あの人、口の中に指輪を隠しているわ」
調べてみると、その通りでした。
そんな事が何度も続いたので、おかみさんは星のひとみを気味悪く思うようになりました。
(ラップ人は、魔法を使うと言うわ。星のひとみも、魔法を使ったに違いない)
おかみさんは、星のひとみを恐れる様になりました。
その年のクリスマス・イブの事です。
お百姓のおかみさんが星のひとみを恐れている事に気づいた隣のおかみさんが、お百姓のおかみさんに言いました。
「あの子を、わたしにおよこし。わたしがラップ人の国に、帰してやるからさ」
隣のおかみさんは星のひとみを連れ出すと、雪山へ星のひとみを置き去りにしたのです。
「雪の上から来た子だから、雪の上でくたばるといい」
その夜、家に帰って星のひとみがいなくなった事を知ったお百姓は、おかみさんから事情を聞いてとても怒りました。
「何て事を! いいか、貧しかった家が豊かになったのも、みんなが病気もせずにいられたのも、泥棒から金の指輪が戻ってきたのも、あれもこれも、みんなあの子のお陰だったんだぞ!」
「確かに、その通りだわ」
お百姓とおかみさんは隣のおかみさんをソリに引きずり込むと、星のひとみを捨てた場所へソリを走らせました。
でもそこには雪のくぼんだ跡と、スキーの跡が残っているだけでした。
その帰り道、隣のおかみさんはオオカミに襲われて、食べられてしまいました。
星のひとみがどこへ行ったのか、知っている人は誰もいません。
おしまい
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