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第151話
絵から出てきた女房
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むかしむかし、ある若者のお母さんが、病気で亡くなりました。
1人になった若者は、今までお母さんがしてくれていた掃除や洗濯などを、全部自分でしなくてはなりません。
「ああ、掃除や洗濯が、こんなにも大変だったとは。
外でも仕事、家でも仕事、もうたくさんだ!
こんな時、お嫁さんがいてくれたらなあ。
・・・でも、おれは貧乏だから、誰もお嫁に来てくれないか」
そんなある日の事、若者が仕事から帰って来ると、テーブルの上においしそうなご飯が用意されているではありませんか。
「誰が、ご飯の用意を? しかも家中が掃除されていて、ゴミ一つ落ちていないぞ」
若者は首をひねりながらも、久しぶりにおいしいご飯を食べました。
次の朝、目を覚ました若者は、またびっくりしました。
「朝ご飯が出来ているぞ。しかも、洗濯も終わっている。・・・夜中に、誰かが来たのかな?」
でも家のカギは閉まったままで、誰かがやって来た様子はありません。
「・・・まあいい。とにかく朝ご飯を食べて、仕事に行こう。
こんな生活が次の日も、その次の日も、毎日続きました。
ある日、自分の世話を見てくれる人の正体が知りたくなった若者は、仕事に行くふりをして、こっそりと裏の窓から家の中を覗いていました。
すると家の壁にかけてある絵の中から女の人が抜け出してきて、せっせと家の仕事を始めたではありませんか。
(まさか、絵から人が出て来るとは)
若者はびっくりしつつも素早く窓から部屋に入ると、驚く女の人の手を掴みました。
「ぼくの世話をしてくれたのは、あなただったのですね」
女の人は、こっくりと頷いて言いました。
「はい。勝手な事をして、ごめんなさい。1人暮らしで、あなたが大変そうだったので、つい」
「いいえ、どうして謝るのです。それよりも、どうかぼくのお嫁さんになってください」
すると女の人は、とても悲しそうに首を振りました。
「わたしは絵の中の女です。人間のお嫁さんに、なれるわけはありません」
「それなら、こうすればいいでしょう」
若者は壁の絵を外して布にくるむと、どこかに隠してしまいました。
「これで、あなたは絵の中に帰る事は出来ません。もう一度お願いします。どうか、ぼくのお嫁さんになってください」
「・・・はい」
女の人は、やさしく微笑みながら頷きました。
それから2人は夫婦になり、3人の子どもも生まれました。
それから何年も過ぎると、近所の人たちが夫婦を見るたびに首を傾げるようになりました。
なぜなら夫の方は普通に年を取るのに、妻の方は若くて美しいままだからです。
やがて子どもたちも、不思議に思うようになりました。
「お父さん。お母さんはどうして、いつまでも年を取らないの?」
「それは。・・・お母さんは、お化粧が上手だからね」
父親は何とかごまかそうとしましたが、子どもたちは信じようとしません。
「どうして? どうしてお母さんは、年を取らないの?」
そこで父親は、仕方なく本当の事を話しました。
「実はお母さんは、絵の中から抜け出して来た人なんだ」
「まさか、そんなのうそだよ。いいよ、お母さんに聞いてみるから」
子どもたちは、今度は母親に尋ねました。
「お母さん。お母さんが絵から抜け出て来たというのは、本当なの?」
すると母親の顔色が、まっ青になりました。
そして母親は大粒の涙をポロポロこぼすと、子どもたちをしっかりと抱きしめながら言いました。
「お前たち、お父さんをよろしくね。そしてお母さんは、お前たちの事を決して忘れないよ」
言い終わると母親の姿が、スーと消えてしまいました。
「お父さん、お父さん! お母さんが消えてしまったよ!」
子どもたちの言葉を聞いて、父親は隠していた絵を取り出して広げました。
するとそこには、悲しそうに涙を流す母親の姿があったそうです。
おしまい
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