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第164話

夏至の夜

夏至の夜
フィンランドの昔話フィンランドの情報

 フィンランドという国は、白夜(びゃくや)といって夏になると一日中明るくて夜がなくなります。
 そして冬になると、極夜(きょくや)といって、一日中暗くて昼間がなくなります。
 だからフィンランドの子どもたちは、一日中明るい夏が大好きです。
 そして夏のうちでも、一番昼間の長い夏至の日が最も好きです。
 それは夏至の夜はみんなが集まって、お日さまのお祭りをするからです。

 ある夏至の夜、お兄さんのカアルと妹のソフィは、お祭りをしている丘に行きました。
 丘では、おいしいお菓子を売るお店が何軒も出ていて、子どもたちが楽しく遊んでいます。
 カアルもソフィも、みんなの遊びの中に入りました。
 そしてしばらくたってから、お腹の空いた二人はお店の前に行きました。
 大勢の子どもたちが、いろいろなお菓子を買っています。
 でもその中にボロボロの服を着た女の子がいて、みんながおいしそうにお菓子を食べているのをうらやましそうに見つめていました。
「あんた、お腹が空いているんじゃないの?」
 ソフィが尋ねると、女の子は恥ずかしそうに言いました。
「・・・ええ。昨日から、何も食べてないの」
「かわいそうだわ。兄さん、わたしのお金を半分あげましょうか?」
「うん、そうだね。ぼくのお金も半分あげるよ」
 カアルも賛成してくれたので、ソフィは女の子の手にお金をのせてやりました。
「ありがとう。ありがとう」
 女の子は、何度も何度もお礼をいいました。
「ぼくたちは、あとで買おう」
「うん」
 兄弟は、また遊びの中に入りました。

 それからしばらくして、カアルが言いました。
「ソフィ。お腹が空いたろう。何か買ってやろうか?」
「そうね。兄さんだって、空いたでしょうから」
 兄弟はまた、お店の方に行きました。
 すると、やせこけた青い顔の男の子が立っていました。
 着ているのはボロボロのシャツ一枚だけで、寒そうにふるえています。
「きみ。そんな格好で寒いだろう?」
 カアルがたずねると、男の子は恥ずかしそうに言いました。
「うん。でもぼくには、着る物がないから」
「じゃあ、このお金をあげるから、お店でオーバーでも借りておいでよ。ソフィ、いいだろう?」
「ええ、いいわよ」
 ソフィも賛成してくれたので、カアルは男の子に残りのお金を全部渡しました。
 兄弟のお金がなくなりましたが、でも二人はまた元気に遊びました。

 それから少したって、誰かが言いました。
「さあ、もうすぐお日さまが登るよ。みんなで山へ登ろうよ」
 その声で、みんなは山へ登り始めました。
 何も食べていないカアルとソフィは、みんなから少し遅れて山の上に着きました。
 するとそこには誰もおらず、二人の天使が立っていたのです。
 その天使をよく見ると、さっきの貧乏な男の子と女の子ではありませんか。
 びっくりする兄弟を見て、男の子が言いました。
「カアル君とソフィさん。
 あなたたちは、なんと心のやさしい兄弟なのでしょう。
 わたしたちは、神さまのお使いなのです。
 子どもたちがどんな行ないをするのか、人間の姿で見ていたのです。
 あなたたち兄弟は、本当に良い事をしました。
 わたしたちはいつまでも、あなたたちを守ってあげますからね。
 ・・・ほら、ごらんなさい。明るいお日さまが登り始めましたよ」
 兄弟は、空の方を見ました。
 すると空のはしの方から、お日さまが顔を出し始めています。
 その明るい光で、木も、花も、ふもとの小川も、きらきらと金色に輝き出しました。
 小鳥たちも、楽しそうに歌います。
「わあー、なんてきれいなんだろう」
「ほんとう、きれいねえ」
 そしてふと気がつくと、もう二人の天使はいませんでした。

 それから二人の天使は二度と姿を現しませんでしたが、約束通り二人の天使は兄弟を守ってくれたのか、それから兄弟は幸運続きで幸せに暮す事が出来たのです。

おしまい

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