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第166話

影を売った男

影を売った男
デンマークの昔話 → デンマークについて

 むかしむかし、月が明るく光っている夜の事、一人の男が野原を歩いていて自分の影が月の光で長く伸びているのに気づきました。
「へえ、影って、きれいなんだな。こんなにきれいなら、誰か買ってくれてもいいのに」

 その時、突然現れた一人の小人が、男に話しかけてきました。
「あなたの影は、本当にきれいですねえ。どうです? あなたの影を、わたしに売ってくれませんか?」
「影を売る? アハハハハハッ。売れる物なら売ってやるが、影を買ったところで、どうやって持って行くんだい?」
「何、簡単ですよ」
 小人は、ふところから取り出した銀のハサミを使って、チョキチョキと男の影を切り取ってしまったのです。
 そしてびっくりしている男に金貨がたくさん入った袋を渡すと、男の影を持ってどこかへ行ってしまいました。

 さてそれから数日後、男は奥さんと一緒に夜の散歩に出かけました。
 空には前の晩と同じように、月が明るく光っています。
 しばらくすると、奥さんが急に立ち止まって叫びました。
「キャアー! あなたには、影がないわ。どうしてなの?」
「いや、それは・・・」
 男は、お金が欲しくて影を売った事を話すのが恥ずかしかったので、適当な事を言ってごまかしました。
 すると奥さんは、おびえた表情で言いました。
「わたし、あなたが怖いわ」
 そのうちに近所の人たちも男に影がない事に気づいて、みんなは怖そうに男を遠ざける様になりました。
 その為に男は、町を出て行く事になりました。
「ああ、あの時、影さえ売らなければよかった」
 男はとても後悔しましたが、いくら後悔しても影が戻ることはなく、山奥で一生一人寂しく暮らしたという事です。

おしまい

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