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第201話

メルジーヌ

メルジーヌ
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 むかしむかし、レイモンという若い騎士が、いとこのポワチエ侯爵の城に遊びに行ったのですが、その途中で道に迷ってしまいました。
「困ったなあ。城へ行く道はどこだろう?」
 暗い森の中をさまよっていると、突然目の前に、小さな泉が見えました。
 あたりには花が咲いて、澄んだ水が岩の間からわき出ています。
「なんてきれいな泉だろう」
 そしてレイモンは、岩の上に一人の美しい娘が座っているのを見つけました。
 レイモンは驚いて、娘に尋ねました。
「美しい娘さん、あなたはどなたですか?」
「わたしは、メルジーヌと申します」
 娘はそう言うと、岩から下りてきました。
 レイモンは娘があまり美しいので、すっかり好きになってしまいました。
「わたしはレイモンという貧しい騎士です。自分に土地と財産があれば、あなたに妻になって欲しいと頼めるのに」
 それを聞いたメルジーヌは、にっこり微笑んで言いました。
「それなら、侯爵さまにお願いしてみてください。『この泉のまわりの土地を、シカ一頭の皮でおおえる広さだけ下さい』と。侯爵さまのお城は、この道をまっすぐ行った所にあります」
 レイモンは教えてもらった道を通って森を抜けると、ようやく城へとたどり着きました。
 そしてポワチエ侯爵にシカ一頭の皮でおおえるだけの土地をもらう約束をもらったレイモンが泉に戻ってくると、あの美しいメルジーヌがシカの皮を持って待っていたのです。
 そしてレイモンはメルジーヌに言われて、シカの皮を細く切った長い長いひもをで、ぐるりと泉のまわりを囲んだのです。
 それは、驚くほど広い土地でした。
「これで自分の土地も出来ました。メルジーヌ、どうかぼくと結婚してください」
「はい。喜んで。でも、一つだけお願いがあります。土曜日だけは、決してわたしを見ないと約束して下さい」
「はい、もちろん約束します」
 それからメルジーヌは、もらった土地に魔法をかけて、大きなルシナン城という城を建てました。
 やがてレイモンとメルジーヌの間には子どもも生まれ、二人は幸せに暮らしました。

 さて、ある土曜日の事、レイモンの兄のフォレスがルシナン城にやって来ました。
 フォレスは、弟が幸せに暮らしているのが、うらやましくてなりません。
 フォレスは、その幸せをぶちこわしてやろうと思って、わざとレイモンに尋ねました。
「ところで、お前のきれいな嫁さんはどこにいるんだい?」
「前にも言ったけど、妻とは土曜日に会わない約束なんですよ」
「そうだったな。ところで、その嫁さんは、土曜日は何をしているんだい?」
「・・・それは、妻に聞いたことがないから」
「聞いてない? それは、どうしてだい? 自分の嫁さんが何をしているかも知らないなんて、おかしいじゃないか。ひょっとしてメルジーヌは、何か悪い事をしているのじゃないのか? もしかしたら、メルジーヌは魔女かもしれないぞ。これは何としても、正体をつきとめなくてはいけないよ」
 兄にそんな事を言われると、レイモンはとても恐ろしくなってきました。

 次の土曜日。
 レイモンは、メルジーヌが土曜日になると閉じこもっている、高い塔へ登っていきました。
 そしてカギ穴から部屋をのぞくと、メルジーヌの美しい顔が見えました。
 しかしなんと、メルジーヌの腰から下はヘビだったのです。
「あっ!」
 レイモンは、まっ青になって叫びました。
 すると、レイモンに見られたと知ったメルジーヌが、悲しそうに言いました。
「ああ、なぜ約束を破ったのですか? この姿を見られては、わたしはもう人間には戻れません。レイモン、さようなら」
 メルジーヌはそう言うと、塔の窓から飛び出して、もう二度と戻って来ませんでした。

おしまい

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