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第213話
カバの王さまの名前
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むかしむかし、カバは川ではなく陸に住んでいて、ときどき動物たちを集めてのパーティーを開きました。
さて、そのカバの王さまはイサンチムと言う名前で、まるまると太った、とても可愛いお嫁さんもいます。
でも、動物たちはイサンチムの事を、
「カバの王さま」
と、言うだけで、だれも本当の名前を呼んではくれません。
(せっかく、イサンチムと言う、いい名前があるのに、どうしてだれも呼ばないのだ)
王さまは、くやしくてたまりません。
そこである日、パーティーを開いて言いました。
「お前たちは、いつもごちそうを食べにくるのに、だれもわしの名前を言わない。さあ、だれでもいいから、わしの名前を言ってごらん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
みんなは顔を見合わせるばかりで、だれも王さまの名前を言えません。
それどころか、
「へええ、カバの王さまに名前があるなんて、今まで知らなかったよ。それで、なんて名前?」
と、言う始末です。
それを聞いて、王さまはすっかり腹を立てました。
「もういい。名前がわからないのなら、さっさと帰ってくれ!」
ごちそうを食べ損なった動物たちは、がっかりです。
テーブルの上に残されたごちそうを見ながら、一匹のカメが言いました。
「王さま、もし、本当の名前を言ったら、どうします?」
「ああ、わしの名前を言う事が出来たら、わしはここを出て、川の中で暮らすさ」
王さまは思わず、そんな事を言ってしまいました。
「では近いうちに、もう一度パーティーを開いてください。その時には、必ず王さまの名前を言いますから」
カメは、急いで帰っていきました。
さて次の日の朝、カメが川のそばの草むらに隠れていると、カバの王さまがお嫁さんを連れてやってきました。
王さまとお嫁さんは、毎朝、川で水浴びをするのです。
二人が水浴びをしている間に、カメはあちこちに小さな穴を掘りました。
さて、しばらくして水浴びをすませた二人が帰ろうとした時、カメが掘った小さな穴に、お嫁さんがつまずいてしまいました。
でも、先を歩く王さまは、それに気づかずに行ってしまいます。
「待って、イサンチム」
お嫁さんが、思わず叫びました。
王さま振り返ると、すぐにお嫁さんを助けました。
さて、次のパーティーが開かれたとき、カメが大きな声で言いました。
「王さまの名前はイサンチムです。イサンチム王、ばんざーい!」
やっと名前を呼ばれた王は、大喜びです。
そこで動物たちに、たくさんのごちそうを出してやりました。
でもパーティーが終わると、王さまはお嫁さんを連れて、約束通り川へおりていきました。
こうしてカバは、川の中で暮らすようになったのです。
おしまい
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