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第214話
天国に迷い込んだ坊さん
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むかしむかし、一人の坊さんが修道院の庭で朝の散歩していると、
♪ピイ チュク チュウ
♪ピイ チュク チュウ
と、世にも美しい声で、小鳥が鳴き始めました。
「ほう、何て素晴らしい声なんだ」
坊さんが、今までにないような、いい気持ちになってきました。
「わたしを、こんなにうっとりさせる小鳥は、どこにいるのだろう?」
坊さんは木を見あげると、小鳥がバッと飛び立って庭から外へ出ていきました。
「まっ、待ってくれ」
坊さんは、思わずそのあとを追いかけました。
♪ピイ チュク チュウ
♪ピイ チュク チュウ
小鳥は木から木へ、枝から枝へと飛び移りながら、ますます美しい声で鳴き続けます。
坊さんは、まるで夢でも見ている様な気持ちになって、なおも小鳥のあとを追い続けました。
それから、どのくらいすぎたでしょう。
「おや?」
坊さんは、思わず耳に手を当てました。
あれほど続いていた小鳥の鳴き声が、ピタリと止んだのです。
坊さんは、急にさみしい気持ちになりました。
まるで、この世の中にたった一人で残された様な気持ちになって、とぼとぼと修道院に戻っていきました。
そしてやっと門の前にたどり着いた時、坊さんは首を傾げました。
そこには、知らない門番が立っていたのです。
修道院に入ると、修道院長も、そこにいる人たちも、知らない人ばかりです。
坊さんは、驚いて、
「これは、いったい、どういう事ですか?」
と、自分の名前を名乗り、わけを尋ねました。
すると修道院の人たちは、驚いた様に顔を見合わせました。
そして、話を聞いた修道院長がやって来て、坊さんに言いました。
「あなたの名前は、聞いた事があります。でもその方は、百年も前に急に消えてしまったそうですよ」
修道院長はそう言って、死んだ人の名簿を坊さんに見せました。
「ほら、ここに、あなたの名前があるでしょう。あなたはこの百年の間、一体どこに行っていたのです? それに、とてもお若いように見えますが」
これを聞いた坊さんは、しばらく声も出ませんでしたが、やがて思い出したように口を開きました。
「わかりました。わたしはきっと、天国の小鳥にさそわれて、天国に足を踏み入れたのでしょう」
そこまで言うと、坊さんの体は百年の時を取り戻すかのように、急に老いていきました。
そして、しわだらけになった口を開くと、満足そうに微笑みながら言いました。
「主よ、ありがとうございます」
そしてすっかり老人になった坊さんは、そのままバタリと倒れて、二度と目を覚ましませんでした。
修道院では、この死んだ坊さんを手厚くほうむったという事です。
おしまい
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