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百物語 第二十六話
酒呑童子
むかしむかし、大江山(おおえやま→京都府)に酒呑童子(しゅてんどうじ)と言う、鬼の盗賊がいました。
酒呑童子はお酒に酔うと、いつも上機嫌になって、ポンポンと頭をたたいて、ニヤニヤと笑うのがくせでした。
ところが、源頼光(みなもとのよりみつ)たちに退治されてからは、酒呑童子は首だけになってしまいました。
お酒好きの酒呑童子は、首だけになっても酒を飲むのをやめられません。
昼も夜も、まっ黒な雲にのって空をとんであるき、酒屋を見つけるとおりてきて、
グワグワグワーァ
と、きみのわるい声でおどかして、酒をただ飲みするのです。
こんなふうにして、酒屋をあらしまわったものですから、京都や大阪では、黒雲を見ただけで、どこの酒屋も大戸をおろしてしまいます。
しかたなく、酒呑童子は黒雲にのって、江戸ヘやってきました。
「ありゃ。あそこに酒屋があるぞ」
酒屋のまえで、ヒラリと雲からとびおりると、
グワグワグワーァ
「上等の酒を五升(→9リットルほど)ばかり、かんをつけて持ってこーい!」
酒屋のものたちは、まっ青になりました。
持っていかなければ、なにをされるかわかりません。
いそいで、かんをつけると、さかずきがわりにどんぶりをそえて、ブルブルふるえながらさし出しました。
「ど、どうぞ。手じゃく(→自分でつぎながら酒を飲むこと)でお飲みなすって」
おいて逃げようとすると、首がどなりました。
「おい、おい。おれは、このとおり首だけだ。手じゃくではやれん。飲ませてくれ」
と、大きな口をバックリとあけました。
酒屋の主人はしかたなく、どんぶりについでは飲ませ、ついでは飲ませして、五升の酒を、みんな飲ませてやりました。
童子の首はすっかりよっぱらって、上機嫌です。
「ああ、ひさしぶりで、なんともいえん、いい気持ちだ。ついでに、わしの頭をポンポンとたたいてくれ」
と、いいます。
酒屋の主人が、こわごわポンポンとたたいてやると、首はいかにもうれしそうに、ニヤッと、笑ったそうです。
おしまい
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