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百物語 第七十三話
あきやのゆうれい
むかしむかし、ある町はずれに、ふるいあきやがありました。
いく年かまえまでは、お金もちがすんでいましたが、いまはあれほうだいです。
やねのかわらはずりおち、のきにはクモの巣(す)がはりめぐらされ、みるかげもありません。
ところが、このあきやから夜になると、ゆうれいがでるとのうわさがひろがりました。
「それがまあ、なんともきれいな女のゆうれいなんだ。年のころなら、十七、八。ヒュー、ドロドロドロと、あらわれるんだ」
これをきいた気のつよい男が、
「よし、おれがゆうれいのしょうたいをつきとめて、人をまどわさないようにしてやろう」
と、イヌをつれて、ゆうれいのでるあきやへでかけていきました。
でも、ゆうれいはイヌがきらいなのか、いっこうにあらわれません。
「はやく、でてくれないかなあ」
男がまちくたびれていると、つれてきたイヌがふるい井戸(いど→詳細)のそばで、やたらにほえました。
そして、イヌはなにをおもったのか、井戸のまわりの土を、せっせとほりはじめたのです。
「なんだ、ここに何かうまっているのか?」
男もほるのをてつだうと、なんと、千両ばこがいくつもでてきました。
そのとき、どこからともなく、女の人の声がしました。
「イヌはにがてです。どこかへやってください」
「やや、おまえがうわさのゆうれいだな。どこにいるんだ?」
「イヌはにがてです。どこかへやってください」
「よし、わかった」
男がイヌを家の外に追い出すと、十七、八の女のゆうれいがあらわれました。
「わたしは、この家ではたらく女中(じょちゅう→詳細)でした。この家の主人の悪い親類が、イタズラで主人の千両ばこをかくしたのですが、それをわたしのせいにされて、わたしは主人に殺されてしまいました。お金がなくなったため、家はほろびましたが、わたしのむねんははれません。どうか、このお金を使い果たしてください。お金が無くなれば、わたしは成仏できます」
泣きながらうったえるゆうれいに、男は、
「よしよし、このお金は、わしが、のこらずつかってやろう。だから、成仏せいよ」
「ありがとう・・・」
ゆうれいはそれ以来、あらわれなくなったということです。
おしまい
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