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百物語 第六十一話
たからばけもの
むかしむかし、あるところにさむらいがいました。
「ほうぼうの国をめぐって、剣のうでまえをみがこう」
と、旅にでたものの、さいふはたちまちすっからかんで、やどにとまる金もありません。
「どこぞ、あきやはないか?」
と、さがしていると、町なかに、たいそう立派なあきやがみつかりました。
きんじょの人に、
「とまってもかまわんか?」
と、たずねますと、
「ばけものがでるっちゅううわさですが、それでもいいなら、おとまりなさい」
と、いうへんじです。
「ほほう、ばけものがでるとは、おもしろい。うでだめしに、せっしゃがたいじしてくれるわ」
さむらいは、よろこんでとまることにしました。
さて、その日のまよなか。
さむらいがウトウトしていると、ゆかしたから、きいろいきものをきた人が音もなくあらわれ、あれはてたにわにむかって、
「さいわい、さいわい、さいわい」
と、よびました。
すると、にわのほうから、
「へーい」
茶色のきものの人が出てきて、なにやら、ひとことふたことかわしたかとおもうと、ふたりとも、フッときえてしまいました。
(なんだつまらん。これだけのことか)
さむらいがガッカリしていると、こんどは白っぽいきものの人があらわれ、やっぱり、にわのほうにむかって、
「さいわい、さいわい、さいわい」
と、よびました。
すると、にわのほうから、
「へーい」
さっきの茶色のきものの人がでてきて、ふたことみことかわしたかとおもうと、ふたりとも、フッときえてしまいました。
そしてこんどは、赤いきものをきた人があらわれ、やっぱり、にわのほうにむかって、
「さいわい、さいわい、さいわい」
と、よびました。
すると、にわのほうから、
「へーい」
またまた、さっきの茶色のきものの人がでてきて、みことよことかわしたかとおもうと、ふたりとも、フッときえてしまいました。
そして、そのまましずまりかえって、もの音ひとつしません。
そこでさむらいは、
「こんどは、せっしゃがやってみよう」
と、あれはてたにわにむかって、よんでみました。
「さいわい、さいわい、さいわい」
すると、こわれた石どうろうのかげから、
「へーい」
茶色のきものの人がでてきたので、さむらいは、そのえりくびをギュッとつかみあげ、
「さっきから、えたいのしれないやつらが、かわるがわる、おまえをよびだして、ヒソヒソとしゃべっておったが、いったいなにものだ?」
「へい、よくぞきいてくだされた。このあきやはむかし、たいへんはんじょうしたお店のだんなの家でした。ゆかしたには、おたからがドッサリ、つぼに入れられたまま、うずめられてましてな、そりゃあもう、くるしくてなりません。きいろいきものの人は、金の精。白いきものの人は、白銀の精。赤いきものの人は、あかがね(→銅)の精でございます。精たちは、夜な夜なあらわれ、『だれかきてくれんものか?』と、わしにきくのです」
「なるほど。そういうおまえはだれだ?」
「つぼの精にございますだ」
「よし、あとはせっしゃがひきうけた。おたからの精にいうておけ。もうじき、地べたからだして、らくにしてやるからとな」
あくる朝、きんじょの人たちがさむらいの身を心配してあきやをのぞくと、さむらいはゆかをはがして、せっせとなにやらほりだしていました。
「いいところにきた。おまえらもてつだってくれ」
みんなでゆかしたをほってみたら、でてくるでてくる。
大きなつぼに、金、銀、銅のおかねがいっぱいです。
さむらいは旅をやめて、この家のあるじになって、のんびりくらしたということです。
おしまい
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