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日本のふしぎ話 第4話
むかしむかしの、ある寒い冬の事です。
お茶売りの男が山道を歩いていると、いつの間にか竹やぶの中にいました。
「どうやら、道に迷ったらしい」
男が薄暗い竹やぶをさまよっていると、ふと大きな屋敷の前に出ました。
「こんな竹やぶの中に、お屋敷とは」
屋敷の庭には季節外れの梅が咲いていて、とても良い香りが漂ってきます。
「ほう、何とも良い香りじゃあ」
すると突然、若くて美しい四人の娘たちが、梅の木のかげから現れました。
「あら、珍しい。人間の男の人だわ」
「どうぞ、家の中にお入りくださいな」
男は娘たちに案内されるまま、屋敷の中に入って行きました。
すると屋敷の中から、もう一人の女の人が出て来て言いました。
「わたしは、娘たちの母親です。どうぞ今夜は、泊まって下さいませ」
そして母親と娘たちは、男をごちそうでもてなしました。
次の朝、母親はあらためて男に言いました。
「ここは女だけの家で、あなたの様な男の人が現れるのを待っていました。娘は四人おりますから、誰でも好きな娘の婿になって下さいませ」
男にとっては、夢の様な話です。
「わしで良ければ、喜んで」
こうして男は、長女の婿になりました。
やがて冬も終わり、暖かい春がやって来ました。
ある日、母親が男に言いました。
「今日は日よりが良いので、娘たちを連れてお花見に行って来ます。
すみませんが、留守番をお願いします。
もし退屈でしたら、家の倉でも見ていて下さい。
きっと、気に入ると思います。
・・・でも、四つ目の倉だけは、決して開けてはいけませんよ」
「わかった。四つ目は見ないよ」
さて、女たちの出かけた後、男は何もする事がなくてボンヤリとしていました。
「ひまじゃー。・・・そうじゃ、倉の中でも見てみるか」
男はまず、一番目の倉の戸を開けてみました。
すると、
ザザーーッ。
と、波が男の足元に押し寄せて来ました。
不思議な事に倉の中には、真夏の海が広がっていたのです。
空にはカモメが飛んで、まっ白い砂浜にはカニがいます。
「海は、気持ちがいいのう」
それから男は、二番目の倉を開けてみました。
そこには、美しい秋の山がありました。
赤や黄色に色づいた木々があり、大きな柿の木にはまっ赤な柿の実がなっています。
「モミジに柿とは、風流(ふうりゅう)じゃのう」
次に男は、三番目の倉を開けてみました。
すると中から、ビューーッと冷たい風が吹いてきました。
倉の中は、一面まっ白な雪景色です。
「うー、寒い、寒い。冬は苦手じゃ」
男は寒そうに身を震わせると、四番目の倉へとやって来ました。
そして戸を開けようとした男は、母親が出がけに言った言葉を思い出しました。
『四つ目の倉だけは、決して開けてはいけませんよ』
開けてはいけないと言われると、余計に見たくなる物です。
「うーん。約束はしたが、ちょっとぐらいなら大丈夫だろう」
男は我慢しきれずに、四番目の倉の戸を開けました。
「ほう、これは見事だ!」
倉の中には、暖かい春が広がっていました。
さらさらと流れる小川のほとりには桃色の花が咲いた梅の木があり、梅の木には五羽のウグイスが楽しそうに飛びかっています。
♪ホーホケキョ
♪ホーホケキョ
ウグイスが、とても美しい声で鳴きました。
「ウグイスじゃあ、きれいじゃなぁ〜」
でもウグイスたちは男の姿を見ると、びっくりした様に鳴くのを止めて、どこかへ飛んで行ってしまいました。
それと同時に周りの景色が変わり、男はいつの間にか竹やぶの真ん中に立っていたのです。
「あれ? 倉は? 屋敷は?」
男がきょろきょろしていると、どこからともなく母親の声が聞こえて来ました。
「約束を破って、四番目の倉を開けてしまいましたね。
わたしたちは、この竹やぶに住むウグイスです。
今日は日よりが良いので、みんなで元の姿に戻って遊んでいたのです。
あなたとは、いつまでも一緒に暮らそうと思っていました。
しかし姿を見られたからには、もう一緒に暮らす事は出来ません。
さようなら」
「そんな・・・」
男は仕方なく、一人で山をおりて行きました。
おしまい
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