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5月6日の日本の昔話
  
  
  
  旅人ウマ
 むかしむかし、あるところに、ふたりのわかものがいました。
   ひとりは金持ちむすこで、もうひとりは、びんぼうむすこでしたが、ふたりはたいそうなかがよくて、いっしょに旅にでることにしたのです。
   テクテクと歩いていたある日のこと、山のなかで日がくれてしまいました。
   ふとみると、一けんの家があります。
   ひとばんとめてもらおうとたのむと、おばあさんがでてきて、なかへ入れてくれました。
   ふたりがねた、真夜中のこと。
   びんぼうむすこは、ふと目がさめて、ねむれなくなりました。
   となりのへやには、まだあかりがついています。
  「ばあさまは、まだおきているのか。少し、はなしでもしよう」
   そうおもい、なかをのぞいてみると、おばあさんが火の気のないいろりにかがみこんで、いっしょうけんめいに灰をかきならしていました。
   そのかっこうが、なにやら田をたがやしているのににているので、
  「おかしなことするもんだな」
  と、かげからみていました。
   しばらくするとおばあさんは、ふところからふくろをとりだして、タネのようなものを灰のなかにバラバラとまきました。
   すると、みるみる芽がでてきて、なえがはえそろいます。
   おばあさんは、それをつまんでぬくと、田うえをするときのようにうえかえ、あれよあれよといううちに、かぶが二倍にふえて、それがまもなく黄色になって、たわわないねになりました。
   こんどは、それをかりとって実を落とし、それを手にとってギュウギュウギュウと三かいにぎると、もうまっ白いもちができあがっていました。
   ふしぎなこともあるもんだと、かんがえていったむすこは、きゅうに、ドロ沼にひきずりこまれるようなねむ気がさしてきて、ふとんにのめりこむようにしてねてしまいました。
   やがて夜が明けて、目をさましたむすこが、あれはゆめだったのだろうかと、ボンヤリとかんがえていると、
  「あついお茶入れましたで、どうぞ」
  と、おばあさんによばれました。
   金持ちむすこは、もういろりばたにこしをおろして、おばあさんと茶をのんでいます。
   そのそばに、ゆうべのもちがあります。
   びんぼうむすこは、金持ちむすこのそばにとんでいき。
  「あやしいもちじゃあ、食わんほうがええぞ」
   しきりにそでひっぱったりして、教えましたが、
  「うまそうなもちじゃのう、ひとつごちそうになろうか」
  と、ほおばってしまいました。
   すると、たちまち金持ちむすこのからだが、ガクンと前におれて、あっというまにウマになってしまったのです。
  「やはり、ゆめではなかった!」
   びんぼうむすこは、わけもわからず、おばあさんのところをにげだしました。
   けれど、なかよしの友だちをほうっておくわけにはいきません。
   あっちのもの知り、こっちの医者にと、たすける方法をきいてまわりましたが、だれも知っているものはいません。
   とほうにくれて、道ばたの石にこしをおろしていると、白いひげのおじいさんがとおりかかりました。
   むすこは、さいごのたのみとおもって、
  「もの知りなおかたとおもうておたずねします。どうぞ、ウマになった友だちをたすける方法を教えてください」
  と、たのみました。
   すると、おじいさんは、
  「ここから東にいくと、ナスの畑がある。そこで、一本の木に七つ実がなっているのをさがして、食べさせよ」
  と、教えてくれたのです。
   むすこは、おじいさんのいうとおり、東に歩いていきました。
   すると、おじいさんのいったとおりに、ナス畑があります。
   大喜びで、一本の木に実が七つなっているのをさがしてまわりましたが、一本の木に五つなっているのしかみつかりません。
   そこで、また東に歩いてみました。
   するとまた、ナス畑がありました。
   そこには、一本の木に実が六つのはありますが、七つのはありません。
   しかたなくまた東へ、東へと歩いていくと、また畑がありました。
   そこでやっと、実が七つなっているのをみつけることができました。
  「これで、たすけられる」
   むすこはナスをふところにねじこんで、走りに走ってもどってきました。
   おばあさんの家へつくと、ウマはちょうど、のらしごとからかえってきたところです。
   さんざんぶたれたり、はたらかされたりしたらしくて、全身ドロだらけで、せなかの皮はむけて、血がにじんでいます。
   むすこはウマに近づくと、
  「これを食え、食えばもとにもどれる」
  と、ナスをとりだしました。
   すると、ウマはサクサクと四つ食べましたが、あとは頭をふって食べようとしません。
   むすこは、
  「みんな食わんと、人間にもどれんのだぞ」
  と、むりやり口のなかにおしこんで食べさせます。
   そうして、ちょうど七つめを食べおわったとき、ウマは大きくいなないてたちあがると、頭、胴と、だんだんに金持ちむすこのすがたにもどっていきました。
   ふたりのむすこは、手をとりあってにげだして、自分たちの村へかえっていきました。
   そこで金持ちむすこは、びんぼうむすこにざいさんわけてやって、なかよくくらしたそうです。
おしまい