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百物語 第十五話
いうな地蔵
むかしむかし、あるところに、すぐにけんかをする、あばれもののばくちうちがいました。
大きなからだの力持ちですが、はたらきもしないで、
「なにかええことはねえもんかなあ」
と、まいにち、ブラブラしています。
ところがある日、ばくちうちは、
「おれもこの土地さえでたら、ちったあ運がまわってくるかもわからん」
と、考えて、ヒョッコリと旅に出ました。
けれども、運がまわってくるどころか、持っていたお金をすべて使い果たしてしまい、
「あーあ、はらはへってくるし、銭はなし。どうしたものか」
と、とほうにくれて、とうげのお地蔵(じぞう)さんの前にこしをおろしていると、下のほうから大きな荷物を重そうにかついでくる、ひとりの男がいました。
「これはしめた。あのなかにゃ、うめえもんがどっちゃりへえってるにちげえねえ。ひとつ、あいつを殺してとってやれ」
ばくちうちは、近づいてきた男に声をかけました。
「おいこら! いったいなにかついどるんじゃい!」
いきなりどなられた男は、ギョッとして、
「こっ、こりゃ食いもんじゃ」
「そんなら、みんなおいていけ! 銭も持ってるなら銭もだせえ!」
と、ばくちうちは男のかついでいる荷物をつかむと、むりやりひきずりおろそうとしました。
「い、いや、これはやれん。うちに持ってかえって食わせなならん。子どもらが、はらすかしてまっとんじゃ」
「そんなことはしらん! よこさんと殺すぞ!」
ばくちうちは荷物を取り上げると、必死に取り返そうとする男をなぐりつけて、とうとう殺してしまいました。
「ふん! すぐにわたさん、おまえが悪いんじゃ」
ばくちうちはまわりを見わたして、人がいないことを確かめると、そばにあったお地蔵さんにいいました。
「おい。見ていたのはおまえだけじゃ。だれにもいうなよ」
そして、そのまま荷物を持って立ち去ろうとすると、お地蔵さんが、とつぜんしゃべりました。
「おう、わしはいわんが、わが身でいうなよ」
そして、ニヤリとわらったのです。
「じ、地蔵がしゃべった!」
ビックリしたばくちうちは、いそいで荷物をかつぐと、山道をころげるように走り去りました。
それから何十年もすぎた、ある日のことです。
あのばくちうちは、まだ旅をしていました。
今ではずいぶん年もとって、どちらかといえば、人のよいおじいさんになっていました。
旅のとちゅうで、ひとりのわかものと知りあい、そのわかものとすっかり仲がよくなって、ずっといっしょに旅をつづけています。
「あの山をこえたところに、おらのうちがあるんじゃ。ぜひよっていってくれ」
わかものにそうさそわれて、ばくちうちは、
「そうか。では、ちょっとよせてもらおうか」
話がまとまり、さっそくいそぎ足になったふたりがさしかかったのが、あのお地蔵さんのあるとうげでした。
ばくちうちがお地蔵さんを見てみると、あの日のことなどまるでうそのように、お地蔵さんの口は一の字にしまっています。
ばくちうちはつい、なかのよいわかものに、このお地蔵さんのことをしゃべりました。
「おい、おもしろいこと教えてやろうか?」
「ああ、なんじゃ」
「じつはな、この地蔵さんはしゃべるんじゃ」
「お地蔵さんがしゃべったりするかえ」
「ほんとうじゃ。げんにこの耳で、ちゃんときいたんじゃ」
「じゃ、なんてしゃべったね」
そうきかれて、ばくちうちは、
「いいか、ぜったいにだれにもいうてくれんなよ。おまえだけにいうんじゃでなあ。ぜったいじゃぞ」
なんどもなんどもねんをおすと、
「もう、ずいぶんむかしのことじゃ。そのころはまだ、おらもわかかったで、ずいぶん悪いこともしてきた。・・・じつはおら、ここで人殺してしまったんや。その殺した男というのが、・・・」
わかものに、あの日のことを全部話してしまいました。
それを聞いていたわかものの顔が、えんま大王のように、みるみるまっ赤になってきました。
「うん? どうした、こわい顔をして」
わかものは、ばくちうちをにらみつけると、
「それはおらの親じゃ、かたきうちをしてやろうと、こうして旅をしながらさがしていたが、かたきはあんたじゃったのか。おのれ、親のかたき! かくご!」
わかものはそうさけぶなり、ぬいた刀できりかかりました。
ふいをつかれたばくちうちは、あっというまに、殺されてしまいました。
そしてそのとき、あのお地蔵さんがしゃべったのです。
「ばかな男じゃ、わしはだまっていたのに、自分でしゃべりおったわい」
おしまい
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