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百物語 第十七話
ゆうれいのしかえし
むかしむかし、ある村に、みすぼらしいたびの坊さんがやってきました。
日もくれてきたので、どこかにとめてもらわなくてはなりません。
坊さんは、庄屋(しょうや→詳細)さんの門をたたきました。
「どうか、ひとばん、とめてください」
すると、庄屋さんは、
「きのどくだが、とめられん。じつは、このあいだ、たびの男をとめて、だいじなものをとられてしまった。たとえ坊さんでも、たびのものはとめないことにした。さあ、はやく立ち去れ」
と、門をしめてしまいました。
「それでは、しかたがない」
坊さんがトボトボあるいていくと、はかばがありました。
はかばには、あたらしい土まんじゅうができています。
「もうしわけないが、ひとばん、ここでごやっかいになりましょう」
坊さんは土まんじゅうをおがんでから、それをまくらによこになりました。
むかしは人がなくなると、おはかにかんおけをうずめ、そのうえに、こんもりと土をかけて、おはかにしたのです。
そのかたちが、まんじゅうににているところから、『土まんじゅう』といったのです。
「どんな人がなくなったのかなあ?」
坊さんが、そんなことをおもいながらねむりにつくと、真夜中(まよなか)になって、白いきものをきた男のゆうれいがあらわれました。
「もしもし、お坊さん」
坊さんは、そのこえにハッと目をさましました。
「あなたは、ゆうれいですか?」
「はい。くやしいことがあって、あの世へゆけないでいます」
「さしつかえなければ、わけをうかがいましょう」
「はい、ぜひとも。わたしは、この村の庄屋さんのやしきにはたらいていたものです。ついこのあいだ、やしきにどろぼうが入りました。庄屋さんは、どろぼうがつかまらないはらいせに、『おまえがどろぼうをやしきにひきいれたのだろう。そんなやつはゆるせん』と、わたしにつみをかぶせて、刀できり殺したのです」
「そりゃあ、ひどい!」
「わたしは、なんとかしてしかえしをしようと、まいばんゆうれいになって、やしきにいくのですが、やしきのほうぼうに、まじないふだがはってあるため、中に入ることができません。なにとぞ、まじないふだを、一まい、はぎとっていただけないでしょうか」
ゆうれいは、なみだを流しながら手をあわせました。
坊さんも、ながいことたびをかさねてきましたが、ゆうれいにたのみごとをされるのは、はじめてです。
「よし、おやすいことだ。つみもないあんたをころすなんて、とんでもないやつ。すぐにいって、まじないふだをはがしてやろう」
坊さんは庄屋さんのやしきへとってかえすと、入り口にはってあるまじないふだを一枚、ペッとはがしてやりました。
「ありがとうございます」
ゆうれいが、そこから入っていったので、坊さんがかくれてようすをみていると、
「たすけてくれえ! ゆうれいだー!」
庄屋さんのさけひごえがしたかとおもうと、
「たいへんだー! だんなさまがゆうれいにおどろいて、いのちをおとされたぞ!」
やしきの中は、えらいさわぎになりました。
「これでゆうれいも、まよわず、あの世へゆけよう」
坊さんは、しずかにたちさっていきました。
おしまい
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