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        日本の悲しい話 第26話 
         
          
         
ゆうれいのしかえし 
       むかしむかし、ある村に、みすぼらしいたびの坊さんがやってきました。 
   日もくれてきたので、どこかにとめてもらわなくてはなりません。 
   坊さんは、庄屋(しょうや→詳細)さんの門をたたきました。 
  「どうか、ひとばん、とめてください」 
   すると、庄屋さんは、 
  「きのどくだが、とめられん。じつは、このあいだ、たびの男をとめて、だいじなものをとられてしまった。たとえ坊さんでも、たびのものはとめないことにした。さあ、はやく立ち去れ」 
  と、門をしめてしまいました。 
  「それでは、しかたがない」 
   坊さんがトボトボあるいていくと、はかばがありました。 
   はかばには、あたらしい土まんじゅうができています。 
  「もうしわけないが、ひとばん、ここでごやっかいになりましょう」 
   坊さんは土まんじゅうをおがんでから、それをまくらによこになりました。 
   むかしは人がなくなると、おはかにかんおけをうずめ、そのうえに、こんもりと土をかけて、おはかにしたのです。 
   そのかたちが、まんじゅうににているところから、『土まんじゅう』といったのです。 
  「どんな人がなくなったのかなあ?」 
   坊さんが、そんなことをおもいながらねむりにつくと、真夜中(まよなか)になって、白いきものをきた男のゆうれいがあらわれました。 
  「もしもし、お坊さん」 
   坊さんは、そのこえにハッと目をさましました。 
  「あなたは、ゆうれいですか?」 
  「はい。くやしいことがあって、あの世へゆけないでいます」 
  「さしつかえなければ、わけをうかがいましょう」 
  「はい、ぜひとも。わたしは、この村の庄屋さんのやしきにはたらいていたものです。ついこのあいだ、やしきにどろぼうが入りました。庄屋さんは、どろぼうがつかまらないはらいせに、『おまえがどろぼうをやしきにひきいれたのだろう。そんなやつはゆるせん』と、わたしにつみをかぶせて、刀できり殺したのです」 
  「そりゃあ、ひどい!」 
  「わたしは、なんとかしてしかえしをしようと、まいばんゆうれいになって、やしきにいくのですが、やしきのほうぼうに、まじないふだがはってあるため、中に入ることができません。なにとぞ、まじないふだを、一まい、はぎとっていただけないでしょうか」 
   ゆうれいは、なみだを流しながら手をあわせました。 
   坊さんも、ながいことたびをかさねてきましたが、ゆうれいにたのみごとをされるのは、はじめてです。 
  「よし、おやすいことだ。つみもないあんたをころすなんて、とんでもないやつ。すぐにいって、まじないふだをはがしてやろう」 
   坊さんは庄屋さんのやしきへとってかえすと、入り口にはってあるまじないふだを一枚、ペッとはがしてやりました。 
  「ありがとうございます」 
   ゆうれいが、そこから入っていったので、坊さんがかくれてようすをみていると、 
  「たすけてくれえ! ゆうれいだー!」 
   庄屋さんのさけひごえがしたかとおもうと、 
  「たいへんだー! だんなさまがゆうれいにおどろいて、いのちをおとされたぞ!」 
   やしきの中は、えらいさわぎになりました。 
  「これでゆうれいも、まよわず、あの世へゆけよう」 
   坊さんは、しずかにたちさっていきました。 
      おしまい 
         
         
        
       
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