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百物語 第十八話
舌をぬくおばけ
むかしむかし、ある村の男たちが話しておりました。
「八畳(はちじょう)のざしきに、八人でとまると、おばけがでるっちゅうぞ」
「そんなこと、あるもんか」
「いや、ほんとにでるっちゅう話だ」
「それなら、ためしに、とまってみるとしよう」
こうして、村はずれのあき家の八畳のざしきに、八人してとまることになりました。
さて、そのばんのうしみつどき(午前二時ごろ)。
八人のうち、七人はグッスリとねむってしまいましたが、たいそうこわがりの男が、一人だけねむれませんでした。
(おばけがでるのかな? 妖怪がでるのかな? それともゆうれいかな? どれにしてもこわいよー)
ふとんの中でブルブルふるえていますと、ざしきの戸が音もなく開いて、てぬぐいをかぶった若くて色の白い女の人が、けむりのように入ってきました。
女の人はねている男の枕元にすわると、顔をピタリとくっつけて、男のくちびるをすってはニヤリと笑うのです。
女の人はつぎつぎと男たちのくちびるをすっては笑い、ついに、ねむれないでいる男のところにきました。
男はふとんをはねのけると、
「おばけだー! たすけてくれー!」
むがむちゅうで、家へと逃げ帰りました。
あくる日、男が村の人たちと、あの空き家に行って八畳のざしきをのぞいてみると、七人が七人とも、舌を抜かれて死んでいました。
このことがあってから、しばらくたったある日のこと、男はたびにでかけました。
とちゅうで日がくれてしまったので、一けんの家をみつけてやどをたのむと、
「それはお困りでしょう。さあ、どうぞ」
女の人が、しんせつにとめてくれました。
男がごはんをごちそうになってから、
「おらの村で、じつは、こんなおそろしいことがあったんだよ。八畳に八人でとまるとおばけがでるといううわさなので、ためしにとまってみるとな。そのばんのうしみつどき。ざしきの戸が音もなくあいて、てぬぐいをかぶったわかくて色の白い女が、スゥーッと入ってきたんだ。そして、男のくちびるをすっては、ニヤリとわらっただよ」
と、あのばんのできごとをはなすと、
「それはもしかして、こんな顔では・・・」
女の人は手ぬぐいをかぶって、ニヤリとわらいました。
「うわぁー! でたー!」
「こんやは、にがさないよ」
男はにげだそうとしましたが、あっという間に舌を抜かれてしんでしまいました。
おしまい
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