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百物語 第二十一話
おんぼろ寺のカニもんどう
むかしむかし、ある村のはずれに、和尚(おしょう→詳細)さんのいないオンボロのあき寺がありました。
いつまでもあき寺ではこまるので、
「よその村から、和尚さんをたのもう」
村の人たちは、これまでになんどか、あたらしい和尚さんにきてもらいました。
けれど、どの和尚さんも、その夜のうちにばけものにおそわれて、つぎの朝にはもう、くいころされてしまっているのです。
もう、いく人の和尚さんが、ばけものにくわれたことか。
村の人たちは、あたらしい和尚さんをたのむにたのめなくて、あきらめていました。
ですから、寺はあれほうだいにあれはてています。
ある日の夕方、この村に、たびの坊さんがやってきて、一けんの家の戸をたたきました。
「どうか、ひとばん、とめてもらえんだろうか?」
坊さんは、たのみましたが、
「あいにくと、家はせまくておとめできねえが、このさきにあき寺があるで、そこにとまったらどうだべ」
村の人にこういわれて、坊さんはあき寺にとまることにしました。
いってみると、これがひどいあれ寺です。
ですが、坊さんは、
「夜つゆがしのげるだけでも、ありがたい」
と、本堂にすわって、まずは、おきょうをあげはじめました。
するとなにやら、あやしいけはいがします。
風もないのに、ローソクの火がユラユラとゆれ、本堂の阿弥陀(あみだ→詳細)さまが、おそろしげなかおになりました。
あみださまは、顔をまっ赤にして、大きな目の玉をグルグルとうごかしながら、
「よくきたな。グフフフフッ」
と、坊さんをにらみつけます。
(この寺に住みついている、ばけものだな。まあ、ほっておこう)
たびの坊さんが、さらにおきょうをあげていると、黒いはかまの小坊主があらわれて、
「おまえと問答(もんどう)をしたい。こたえられねば、とってくうが、いいか」
と、ききました。
(やれやれ、しかたがない。あいてをしてやるか)
坊さんはおきょうをやめると、小坊主にいいました。
「いいだろう。問答をしてやろう」
「では、いくぞ。大足二足(たいそくにそく)、両足八足(りょうそくはっそく)、二眼天眼通(にがんてんがんつう)にして、色紅(いろべに)とは、これいかに?」
「アハハハハハッ。これはたやすいもんどうだ。足の数でわかった。それは、カニだ!」
たびの坊さんがどなると、
「ギャアアーッ!」
とたんに、なにやらさけびこえがあがって、あとはシーンと、しずまりかえりました。
小坊主もきえ、阿弥陀さまも、いつものおだやかな顔にもどっていました。
つぎの朝、村の人たちが、
「ゆうべの坊さまも、ばけものにくわれてしまったべ。気のどくなことしたなあ」
と、あき寺にやってくると、たびの坊さんは、本堂のそうじをしています。
「あんれ? ばけものは、でなかったかね?」
「いや、でることはでたが、問答をといて、どなりつけたら、どこかへきえたようじゃ。いま、そうじをしながらさがしているところだ。すまんが、てつだってくれんか?」
みんなでさがしまわると、お寺のえんの下に、大きなカニが死んでいました。
たびの坊さんは、カニのばけものにころされた、これまでの和尚さんたちをねんごろにとむらって、この寺の和尚さんになりました。
おしまい
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