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百物語 第二十二話
ばけもの寺のしゃみせん
むかしむかし、あるところに、だれもすんでいないオンボロ寺がありました。
その寺は、おそろしいばけもの寺だといううわさです。
とまったらさいご、だれひとり、ぶじにかえってきません。
あるとき、気のつよい男が、
「アッハハハハ。ばけものぐらい、おれがたいじしてみせるわ」
と、ばけもの寺へとまりにいきました。
男はもってきたさけをのみながら、ばけものがあらわれるのを、いまかいまかとまっていました。
するとてんじょうから、スルスルスルッと、なにかがさがってきました。
みると、しゃみせん(→詳細)の弦楽器で、胴体部に、ネコやイヌの皮を張るのが特徴)です。
「なんだ、しゃみせんではないか。どれ、ひまつぶしにひいてみるか」
男がしゃみせんに手をのばすと、
ペタリ。
手がくっついて、はなれません。
「ややっ、これはいかん」
男はしゃみせんを、足でけとばそうとしました。
すると、足もペタリ。
くっついてしまい、どうしてもはなれません。
「こりゃあ、どうしたことだ。なんとかせねば!」
男があせってもがくと、かみの毛も顔も、しゃみせんにくっついて、どうにもなりません。
「わあーっ、助けてくれー!」
男が泣きさけぶと、しゃみせんは男をくっつけたまま、こんどは、スルスルスルッと、てんじょうにあがっていきます。
そしてとうとう、てんじょううらにひそんでいたばけものに、たべられてしまいました。
さて、やがてこの村に、たびのお坊さんがとおりかかって、ばけもの寺のことを耳にしました。
「ばけものですか。では、わたしがとまってみましょう」
お坊さんがいうと、
「とんでもねえ」
「ばけものに、くわれてしまうだよ」
村の人たちがとめました。
「いや、しんぱいはいりません。あしたの朝、ようすをみにきてください」
お坊さんが、ばけもの寺にとまると、てんじょうからスルスルスルッと、しゃみせんがさがってきました。
でも、お坊さんは手をだしません。
「てんじょうに、なにかいるようだ。・・・そこだな!」
お坊さんは、もっていたつえを、てんじょうになげつけました。
ギャーッ!
てんじょうで、ものすごいこえがしましたが、そのまましずかになりました。
朝になり、かけつけてきた村の人と、てんじょううらをのぞくと、たくさんの人の骨といっしょに、人よりも大きなクモが死んでいたということです。
おしまい
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