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百物語 第二十三話

百目のアズキとぎ

百目(→詳細)のアズキとぎ

 むかしむかし、たびの男が、ひとりでさみしい山みちをあるいていました。
「ああ、日はくれるし、はらはへるし、こころぼそいことになってしまった」
 男がトボトボと歩いていくと、どこからともなく、
 ショキショキ、ショキショキ
と、アズキをとぐような音がしました。
「やれやれ、このあたりに家があるらしい。うちのひとがアズキをといでいるんだろう。いって、とめてもらおう」
 男が音のするほうへいくと、どうしたことか、音がピタリとやんでしまいました。
 あたりは草はらで、家などみあたりません。
 よくみると、足もとにアズキのつぶがちらばっているだけでした。
 男がちらばったアズキつぶをながめていると、そのひとつぶがピョンとうごいて、ピョンピョンピョンとにげだしました。
「まてまて、どこへいくんだ」
 男がおいかけていくと、アズキつぶが、おはかのところでみえなくなってしまいました。
「こりゃあ、いやなところに、きてしまったわい」
 男はあわてて、おはかをはなれました。
 すると、さっきのアズキつぶが、うしろからおいかけてきます。
 ところが、男がふりかえると、アズキつぶはピョンときえるのです。
 男はうすきみわるくなって、かけだしました。
 しばらくいくと、だれもすんでいない一けんのあばらや(→あれはてた家)がありました。
「これはありがたい」
 男があばらやに入って、ホッとしていると、
 ショキショキ、ショキショキ
 また、アズキをとぐような音がきこえてきました。
「おっかねえ、おっかねえ。あれは、アズキとぎのばけものかもしれん」
 男はふとんをあたまからかぶって、ねることにしました。
 ところが、アズキとぎの音は、ますますせまってきて、
「おーい、あけろ! ドンドンドン!」
 戸をたたくではありませんか。
 男がしかたなく戸をあけると、赤らがおの大きなばけものがたっていました。
 その顔には、なんと、目が百もついています。
 男が「ぎゃっー!」と、さけんで、にげだそうとすると、アズキとぎのばけものが、ながいうでをのばして、男をつかみあげました。
 つぎの朝、あばらやにはアズキがちらばっていただけで、男はかげもかたちもなくなっていました。

おしまい

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