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百物語 第百話

百物語

百物語

 むかしむかし、江戸の浅草花川戸(あさくさはなかわど)に、道安(どうあん)という医者が住んでいました。
 ある日のこと。
《伝法院(でんぽういん)の広間(ひろま)で、百物語(ひゃくものがたり)をもよおすので、ぜひご出席いただきたい》
と、いう、つかいがきました。
 伝法院(でんぽういん)といえば、浅草境内(あさくさけいだい)にある、ゆいしょある大きな寺です。
 日がくれると、道安は寺へでかけていきました。
 この伝法院には、小堀遠州(こぼりえんしゅう→江戸前期の有名な茶人・造園家)がつくったといわれる、江戸でも名高い、りっぱな庭がありました。
 この庭を前にして、広間には、九十九本のローソクが立てられています。
 そして、その一本一本のローソクのうしろには、九十九人の男女が、きちんとすわっているのでした。
 年はさまざまでしたが、男も女も礼儀ただしくすわっているところをみると、みんな、そうとうな格式(かくしき→身分や家柄がすぐれていること)を持った人たちのように思われます。
「どうぞ、こちらへ」
 道安は庭が正面に見える、一座のなかの上座(かみざ→目上の人がすわる場所)にすわらされました。
 紋(もん)つき羽織(はおり)に、はかまをはいた、世話役らしい老人が、しらが頭をていねいにさげて、こういいました。
「では百人、ちょうどそろいましたので、会をひらかせていただきます。今夜はじめてご出席のかたもおられますので、ちょっともうしのべますが、この百物語は、おひとりが一つずつ、ばけものの話をなさって、ご自分の前のローソクを消してまいります。そういたしますと、百本のローソクが消されましたとき、ほんとうのばけものがあらわれるのでございます」
と、そのとき、道安はカラカラと笑って、
「この世にばけものなど、おろうはずはない。もしおったら、死んでもよいからお目にかかりたいものじゃ」
と、いいました。
 すると、広間じゅうのローソクがパッと消えると同時に、そこにいた九十九人が、ひとりのこらずすがたを消してしまったのです。

おしまい

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