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7月14日の日本の昔話

雷さまのびょうき

雷さまのびょうき

 むかしむかし、下野の国(しもつけのくに→栃木県)の粕尾(かすお)に、ある和尚(おしょう→詳細)さんが住んでいました。
 和尚は、その名を知られたお医者さんでもありました。
 ある夏の昼さがり。
 でしの小坊主をつれて、病人の家から帰るとちゅうのことでした。
「和尚さま、おあついことで」
「まったくじゃ」
 二人は、あせをふきながら歩いていましたが、とつぜん、ポツリポツリと雨がふりはじめ、みるみるうちに空がまっ暗になりました。
「にわか雨じゃ、いそげ!」
「へい」
 やがて雨は、水おけをひっくりかえしたような、ひどい夕立になってしまいました。
 ゴロゴロゴロ!
「きゃー、かみなり! 和尚さま、たすけてー!」
「これっ、薬箱をほうりだすやつがあるか!」
「でも、わたくしは、かみなりが大きらいなので」
 はげしい雨と、光るいなずま。
 ゴロゴロゴローッ!
 ドカン!!
 すぐ近くの木にかみなりが落ちたようです。
「わーっ!」
 和尚さんは、こわがる小坊主をひきずって、やっとのことで寺へ帰ってきました。
「あの、和尚さま。早く雨戸をしめてください」
 かみなりがこわくて小坊主がいいましたが、和尚さんはいなずまが光る空を見あげています。
「ほほう、このかみなりさんは、病気にかかっておるわい」
「へっ? 和尚さまは、かみなりの病気までわかるのですか?」
「うむ、ゴロゴロという音でな」
 さすがは天下の名医です。
 さてその夜、ねむっている和尚さんのまくらもとに、こっそりしのびよったものがいます。
 モジャモジャあたまから二本のツノに、トラ皮のパンツ。
 なんとそれは、かみなりさま(→詳細)でした。
 でも、なんだか元気がありません。
 和尚さんのそばにすわって、ため息をついているのです。
 和尚さんはうす目を開けて、ようすを見ていましたが、じれったくなって先に声をかけました。
「どうかしたか? なにかおこまりのようじゃが」
 和尚さんが声をかけると、かみなりさまは、和尚さんの前にガバッとひれふしました。
「わ、わしは、かみなりでござる」
「見ればわかる。それで、なにか用かの?」
 かみなりさまは、なみだを流しながらいいました。
「わし、この二、三日、ぐあいがおかしいのです。どうか、わしのやまいをなおしてくだされ。おねがいします」
「やっぱりのう」
「それでその、天下の名医ともなれば、お代は高いでしょうが。こんなもんでいかがでしょうか?」
と、かみなりさまは小判を三まいさしだしました。
 でも、和尚さんはしらん顔。
「えっ! これではたりませぬか」
 かみなりさまは、こんどは小判を五まいさしだしていいます。
「では、これで」
「わしのちりょう代はな、うーんと高いのじゃ」
「そうでございましょうなあ。なにしろ天下の名医でございますし」
「しかしまあ、金の話はあとにして、そこへ横になりなさい」
「みてくださるんですか」
 かみなりさまは大よろこびです。
 和尚さんは、かみなりさまのからだを、力いっぱいおしたりもんだりしてしらべます。
「ひえ〜、いたいよう、たすけて〜!」
 かみなりさまは、目玉がとびだすほどのいたさに大声をあげます。
 その大声におどろいて、小坊主はへやのすみでふるえていました。
「これ、小坊主! なにをしておる。こんどはおきゅうをする。はやく道具をもってまいれ!」
 小坊主はビックリ。
「なんでかみなりなんぞの病気をみるのですか。こわいからいやです!」
「なにをいうとる! おまえもおきゅうのてつだいをしろ!」
「和尚さま、あんな人のめいわくになるかみなりなぞ、いっそ、死んでいただいたほうが」
「ばっかも〜ん!!  どんなものの病気でもみるのが医者のつとめじゃ」
と、いうわけで、和尚さんはかみなりさまにおきゅうをすえました。
「うお〜っ、あちちち、たすけて〜!」
 あまりの熱さに、かみなりさまは大あばれです。
 ところが、おきゅうが終わったとたん、かみなりさまはニッコリ。
「あーっ、スッキリした。からだがかるくなった。おきゅうすえたら、もうなおった」
 さすがは、天下の名医。
「で、お支払いのほうは、さぞお高いんでしょうなあ」
「ちりょう代は高いぞ。・・・じゃが、金はいらん」
「じゃあ、ただなんですか?」
「いいや、金のかわりに、おまえにしてもらいたいことが二つある。一つは、この粕尾(かすお)では、かみなりがよく落ちて、人が死んだり家がやけたりしてこまっておる。これからは、ぜったいにかみなりを落とさないこと」
「へい、へい、おやすいことで」
「二つめは、このあたりを流れる粕尾川のことじゃ。大雨がふるたびに水があふれてこまっておる。川が村の中を流れておるためじゃ。この流れを村はずれにかえてほしい。これがちりょう代のかわりじゃ。どうだ?」
「そんなことでしたら、おまかせくだせえ」
 どんなことをいわれるのか心配していたかみなりは、ホッとしていいました。
「それではまず、先生のお寺から粕尾の人たちに、おふだをくばってください。これを、家の門口にはってもらうのです。それから、粕尾川ですが、流れをかえてほしい場所に、さいかち(マメ科の落葉高木)の木を植えてください。そうすれば、七日のうちにはきっと。・・・では、ありがとうございます」
 そういったかと思うと、かみなりさまは、あっというまに天にのぼっていってしまいました。
 和尚さんは、さっそく村の人たちをお寺にあつめておふだをくばりました。
 そして、山のふもとにめだつように、さいかちの木を植えつけました。
 さて、その日はおてんとさまがギラギラのよい天気でしたが、にわかに黒雲がわきおこったかと思うと、いなずまが光り、はげしい雨がふりだしました。
 まるで、天の井戸(いど→詳細)がひっくりかえったような大夕立です。
 村人たちは、和尚さんからいただいたおふだをはって、雨戸をピッタリとしめて、雨がやむのをジッと待っていました。
 こうしてちょうど七日め、大雨がピタリとやんだのです。
 雨戸を開けると、黒雲は遠くにさり、太陽が顔を出しています。
 あれだけの雨だったのに、かみなりはひとつも落ちませんでした。
「あ、あれを見ろ!」
「なんだ、なんだ」
 村人が指さすをほうを見ると、昨日まで流れていた粕尾川がきれいに干上がり、流れをかえてさいかちの木のそばを、ゆうゆうと流れているではありませんか。
 これでもう、村に洪水(こうずい)がおこる心配はなくなりました。
 かみなりさまは、和尚さんとのやくそくをりっぱに守ったのです。
 それからというもの、粕尾の里では、落雷のひがいはまったくなくなったということです。

おしまい

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