|
|
百物語 第九十七話
山の中のネコの家
むかしむかし、あるネコ好きのおばあさんが、一匹の三毛ネコを手に入れました。
ネコは年を取って、しっぽの先が分かれるようになると、化けるというので、おばあさんは三年ごとに区切って飼うことにしました。
初めの三年間がアッというまに過ぎ、三毛ネコはすっかりおばあさんになつきました。
そこで、また三年間飼うことにして、自分の子どものようにかわいがりました。
六年たっても、まだしっぽの先が分かれていないので、もう三年間飼うことにしました。
九年も過ぎると、さすがにネコも元気がなくなり、しっぽの先が分かれはじめます。
そこで、おばあさんもやっとあきらめ、ネコを手ばなすことにしました。
「ようがんばった。困ったことがあれば、いつでももどっておいで」
おばあさんは、ネコのために赤飯をたいて食べさせ、にぼしのつつみを首にかけてやりました。
家を出たネコは、名ごりおしそうに何度もふり返っていましたが、やがて姿を消しました。
それからというもの、おばあさんは、さみしくてしかたがありません。
別れたネコのことを思うと、新しいネコを飼う気がおきません。
何年か過ぎたころ、おばあさんは一人で、お遍路(おへんろ→空海という、有名なお坊さんが修行した、四国の八十八箇所を巡る旅)の旅に出ました。
ところがある日、山でまよってしまい、帰り道がわからなくなったのです。
行けども行けども、深い森で、ついに道もなくなりました。
そのうちに、あたりがだんだん暗くなり、動くこともできません。
(こまったことになった)
おばあさんは、どっとつかれが出て、おなかがすいてきました。
でも、食べるものはありません。
(このまま、ここでのたれ死にするのか)
そう思うと、くやしいやら、なさけないやら。
だからといって、いまさらジタバタしても始まりません。
おばあさんはあきらめ、ドカッと腰をおろしました。
するとその時、向こうに小さな明かりが見えたのです。
(こんな山の中に、どうして家が)
ふしぎに思いましたが、とにかく明かりの方へ行くことにしました。
近づいて行くと、一人の女の人が、風呂場のかまどにまきをくべています。
おばあさんは、その女のそばへ行き、
「道にまよって困っている。今夜ひと晩泊めてもらえぬか」
と、いいました。
女は顔をあげたとたん、うれしそうにさけびます。
「あら、まあ! これは、なつかしい。おばあさん。わたしは、おばあさんの家にいた三毛ネコです」
「なに、おまえが、あの三毛ネコだって」
おばあさんが、よくよく女の顔を見たら、なんと、自分のかわいがっていたネコではありませんか。
「ほんとだ。どこへ行ったのかと心配していたが、無事でなによりじゃ。ところで、この家にはだれが住んでいる?」
おばあさんがたずねたら、ネコは急にまじめな顔になり、
「ここは、恐ろしいネコの家で、年をとってしっぽの先が分かれるようになると、みんなここへやってくるのです。どのネコも化けることができ、人間を見つけると、すぐに食い殺してしまいます。せっかく会えたのにざんねんですが、みんながもどらないうちに、早く逃げてください」
と、言いました。
「なんと・・・」
おばあさんは、青くなってふるえだしました。
「でも、おばあさんはわたしをとてもかわいがってくれました。だから、なんとか助けたいのです。わたしが案内しますから、ついてきてください」
そう言っているうちにも、
「ニャーオン、ニャーオン」
と、ぶきみなネコの鳴き声が近づいてきました。
「ささっ、急いで!」
ネコはおばあさんの手をとると、鳴き声とは反対の方へかけだします。
しばらく行くと、大きな竹やぶの前に出ました。
すると、ネコが立ちどまって言いました。
「この竹やぶをくぐると、すぐ向こうに道があります。その道をおりて行けば、下の村へ出られます」
「ありがとう」
おばあさんはお礼を言って、竹やぶにとびこみました。
竹やぶの向こうに道があって、おばあさんは無事に下の村までたどりつくことができたそうです。
おしまい
|
|
|