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百物語 第五十一話

人の精気を吸うがま

人の精気を吸うがま

 むかしむかし、あるところに、古い家に住んでいる老人がいました。
 べつになにが原因とわからないままに元気がなくなり、どんどんやせていきます。
 そこで医者にもみてもらい、高い薬も飲んでみましたが、いっこうによくならず、ついには寝こんでしまったのです。
 ある日、ひさしぶりのよい天気なので、床(とこ→この場合はふとん)を出て縁側(えんがわ)に腰をかけ、ボンヤリと庭をながめていました。
 すると、近くの木の枝にとまっていたスズメが、きゅうにそばへ飛んできたかと思うと、縁の下に飛びこみました。
「はて、なにを見つけたのかな?」
と、ふしぎに思い、縁の下をのぞきこんでみましたが、どこへ消えたのか、それっきりスズメは出てきません。
 そこへノラ猫がやってきて、庭石にのぼり、毛づくろいを始めました。
 ところが、ネコはふいにころがりだし、そのままなにかに引きずられるように、こっちへ近づいてきたかと思うと、やはり縁の下に消えました。
 そればかりではありません。
 目の前の木をはっていた毛虫が、とつぜん下へ落ち、地面を引きずられるようにして縁の下へ消えたのです。
「いったい、どうしたというのだ?」
 老人は、だんだん気味が悪くなり、ふたたび床へ入って横になりましたが、どうしても胸のドキドキがおさまりません。
 そこで手伝いの男を呼んで、縁の下を調べてくれるようにたのみました。
 男が縁側の板をはずし、下へもぐりこむと、縁の下には大きなガマガエルがいて、男を見るなり、フッと息を吹きかけたのです。
 とたんに胸が苦しくなり、男はもう少しでたおれそうになりました。
「だ、だれか!」
 男の叫び声を聞いて、老人が起きてかけつけると、男が青くなって縁の下からとびだしてきました。
「どうした?」
「ガ、ガ、ガマ、・・ガマが」
 いったきり、男が気を失いました。
 老人はビックリして、近所の人たちを呼んできました。
「かまわないから、その縁側をこわして、下を見てくれ」
と、いうので、近所の人が、つぎつぎと縁側の板をめくると、どうでしょう。
 大きな海ガメほどもあるガマが、ゆっくりとはいだしてきたのです。
 ガマは老人をジロリとながめ、そのまま庭を横ぎり、うらの竹やぶに消えました。
 その無気味な姿に、だれも声がでません。
 しばらくしてハッと気がつき、縁の下を調べてみると、食べ残したネコの骨やらスズメの羽がちらばっていました。
「さては、いままでのふしぎな出来事は、すべてガマのしわざであったか。・・・もしかして、自分の病気もガマのせいでは」
と、思い、物知りにたずねてみると、
「ガマは、ときに妖怪となって、人間の精気(せいき→元気)まで吸う。病気になっても不思議ではない。ガマがいなくなったのだ、病気もなおるだろう」
と、教えてくれました。
「やれやれ、あぶないところであった」
 老人は、ホッとして胸をなでおろしました。
 物知りのいうように、老人の病気はうそみたいによくなり、やがて、もとの元気なからだになったといいます。

おしまい

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