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日本のとんち話 第33話
彦一の生き傘
むかしむかし、彦一(ひこいち→詳細)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
彦一の家には、生き傘(かさ)といわれる不思議(ふしぎ)な傘があるとのうわさが流れました。
なんでも雨が降ると自然に開き、天気になるとすぼむというのです。
うわさはどんどん広まって、とうとうお城の殿さまの耳にもとどきました。
「それほどめずらしい傘なら、ぜひ手に入れたい」
と、殿さまはさっそく、彦一の家に使いを出しましたが、彦一は、
「これは、うちの家宝です。いくら殿さまでも、ゆずるわけにはいきません」
と、ことわりました。
だめだと言われると、殿さまはますますその傘が欲しくなりました。
それで、金はいくらでも出すからと言うと。
「わかりました。いつもお世話になっている殿さまには逆らえません。そのかわり、お礼はたんといただきます」
と、いうわけで、彦一は殿さまから大金をもらいました。
さて、殿さまは彦一から生き傘を手に入れたものの、このごろはお天気続きで、ぜんぜん雨が降りません。
はやく雨が降って、傘が開くところを見たいと、殿さまはじめ、家来たちも毎日イライラしていました。
そして、彦一から傘を手に入れてから十日後のことです。
ついに念願(ねんがん)の雨が降ってきました。
ところがどうしたことか、いくら雨が降っても、傘はいっこうに開きません。
「どうした。雨が降ったのに、なぜ開かぬ。だれか、彦一を呼んで参れ!」
殿さまは、さっそく彦一を呼びつけると、
「このうそつきめ、雨が降ったのに、傘はいっこうに開かんじゃないか!」
と、カンカンに怒りました。
ところが彦一は、傘を見ると悲しそうな顔をして、殿さまにたずねました。
「かわいそうに、こんなにやせてしまって。・・・殿さま。この傘に、何か食べ物は与えましたか?」
「なに? どういう意味だ?」
「おおっ、やっぱり。・・・殿さま、この傘はうえ死にしとります。傘とはいえ、生きとるものには、必ず食いもんがいります。注意しなかったおらも悪かったが、お城にはこれだけの人がいて、だれもその事に気づかなかったのですか?」
と、言って、おんおん泣き出しました。
「・・・・・・」
これには、殿さまも返す言葉がありませんでした。
おしまい
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