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日本のとんち話 第34話
一袋の米
あるとき、お城につかえる曽呂利(そろり)さんが、秀吉公(ひでよしこう→豊臣秀吉)にこんなお願いをしました。
「私の町は、まずしい人が多く、みんな毎日食べるものに困っています。そこで、殿さまのおなさけをもちまして、紙袋一ぱいほどの米を分けてやりたいと思います。どうぞ、お許しくださるよう、お願いいたします」
こんなことを、まじめくさって、ていねいにたのむので、秀吉公は、へんだなとは思いましたが、
「なんじゃ、それっぽっちのことか。つまらんことを聞くな。お前のすきなようにせい」
「あのう、それが大きなふくろでして」
「たかが、紙の袋じゃ。すきなだけもたせてやれ」
「さすがはおなさけ深いお殿さまでございます。町のものも、さぞかし喜ぶことでしよう」
曽呂利はペコぺコおじぎをして、秀吉公の書付(かきつけ→江戸時代、将軍や老中の命令を伝えた公文書)をおしいただいて、お城をさがりました。
それから、十日ほどたったある日のことです。
「殿さま、大変でございます」
家来が、秀吉公のところへかけつけてきました。
「いかがいたした」
「ちょっと、町のようすを、・・・ああ、あれです」
秀吉公の米倉の中の一つに、それはすごく大きな紙の袋がすっぽりかぶさっています。
そして大勢の町人が、米倉から、どんどんお米を運び出しているのです。
おどろいた役人が、これを止めようとすると、あの曽呂利が殿さまの書付をみせて、役人を下がらせます。
「殿さま、あのとおりです」
「ううむ・・・」
「あのぶんですと、かなりたくさんの米が出ていってしまいます。何がなんだかわからず、せっしゃ、みるにみかねてお知らせにあがりました」
「ふむ、ふむ、なるほど。うひゃはははは、これはけっさく。おもしろいわい」
「殿さま、笑っている場合ではございません。早く、止めてくださいますよう」
「まあ、よいではないか」
「しかし、あんなにどっさりのお米を」
「よいよい。わしもあいつと約束したのだし、何かわけがあるにちがいない。すてておけ。・・・それにしても曽呂利のやつ、でっかい袋を作ったもんじゃ。うひゃははははは」
つぎの朝、曽呂利がお城にやって来ました。
「殿さま、昨日はありがとうございました」
「よい、れいにはおよばん。それにしても、すごい袋をつくったものだ」
「はい。あれだけで十日ほどもかかりました。いただきました米は、荷車で百二十台分ございました。お約束通り、町のまずしい人達に、『これは、おなさけ深い殿さまからのお米だ』といって、分けてやりました。みんな、涙を流して喜こんでくれました。殿さま、曽呂利からも、あつくお礼申し上げます」
「でかした。さすがは曽呂利じゃ。・・・じゃが、今回だけでかんべんしてくれよ。うひゃははははは」
おしまい
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