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日本のとんち話 第41話
長ーい文字
むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん)と言う、とんちで評判の小僧さんがいました。
ある日の事、隣村のお寺へ出かけた和尚(おしょう)さんが、なにやら浮かぬ顔で帰って来ました。
そして和尚さんは、庭を掃除していた一休さんを見るなり言いました。
「おお、一休。
わしは今日、隣村の和尚とえらい約束をしてしもうた。
頭の良いお前に、知恵(ちえ)を貸してほしいのじゃ」
「はい、わたしでお役に立つ事でしたら」
「そうか、いつもすまんのう。
実は、隣村の和尚と話をしていて、お前の事が話に出た。
わしが、
『一休は知恵者で、何でも知っておるし、何でも出来る』
と、言うたら、あの和尚のやつ、
『それなら知恵者の一休に、日本一長い字を書いてもらおう』
と、言いおった。
『そんな事くらい、一休なら簡単じゃ』
と、わしも引き受けたんじゃが。
・・・一休、お前に出来るかのう?」
それを聞いて、一休さんは頭をポリポリとかきました。
「はあ。・・・仕方ありませんね。日本一長い字、明日までに何とか考えてみます」
次の朝、一休さんは和尚さんのところへ行くと、ニコニコしながら言いました。
「和尚さん。日本一長い字を書きますから、隣村のお寺へお使いを出して、あちらからうちの寺まで紙をしきつめる様に言ってください。
それと、竹ぼうきで作った筆と、たらいにいっぱいの墨(すみ)を用意してください」
「おお、出来るのか! よし、わかった!」
さて、日本一長い字を書く用意が出来ると、一休さんは隣村のお寺に出かけました。
隣村の和尚さんは、一休さんに言いました。
「まったく、こんなにたくさんの紙を用意させおって。書けるもんなら、書いてみろ。ただし、もし書けなかったら、紙代を弁償(べんしょう)してもらうぞ」
「ご心配なく。それでは、わたしについてきてください」
一休さんは竹ぼうきで作った太い筆に墨をたっぷりふくませると、つううううーっと、紙の上にまっすぐな線を走らせました。
その線はどこまでもどこまでもまっすぐ続き、一休さんたちのお寺でようやく止まりました。
隣村の和尚さんは、一休さんに怖い顔で言いました。
「なんじゃあ、これは!?
これは、ただの線ではないか!
こんな物は、字とは言えん。
さあ、約束通り紙代を弁償してもらおうか」
すると一休さんはニッコリ笑い、今まで引いてきた線の最後をピンと右にはねて言いました。
「はい。これで日本一長い字が書けました」
「字だと? これのどこが・・・、あっ!」
「そうです。これは、ひらがなの『し』でございます」
こうして見事に日本一長い字を書いた一休さんのとんちは、ますます評判となりました。
おしまい
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