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百物語 第五十九話

とっつく、くっつく

とっつく、くっつく

 むかしむかし、ある村に与作(よさく)という男がいました。
 たいへんなこわがりで、長いへちまがぶらさがっているのを見てドッキリ、草がざわついてもドッキリ。
 ネズミが現れると、腰をぬかして、
「おかか、助けてくれろっ!」
と、いったしだいです。
「やんれ、こんなではこの先どうなるもんだか」
と、おかみさんもなげいておりました。
 ある日、与作は村の寄り合いに出かけましたが、帰りは日もくれて、おまけに雨もふっていました。
「気味が悪いな。化けもんが出よったら、どうしよう?」
 ヒヤヒヤのビクビクで、ようやく家にたどりつきました。
「やんれ、これでまんず安心」
 だけれど、この安心がゆだんのもとで、戸口に足を入れたとたん、気味の悪い冷たい手が、与作の首をつかまえました。
「ヒェェー! おかか! 助けてくれろっ。おら、化けもんにつかまっちまったあ」
 おかみさんがよく見ると、屋根の雨粒が、与作の首をぬらしていました。
「屋根の雨ん粒やないか。化けもんちゅうは、みんなこういうもんだよ、おまえさん」
「へええ、化けもんちゅうのはみな、雨ん粒のことか」
 さてつぎの日、友だちの作ベえどんに出会いました。
「与作どん聞いたか? 川っぷちに毎晩化けもんが出るちゅうこった」
「ははん、雨ん粒だな」
「なんやらわからんような、恐ろしいやつが、追いかけてきよるんだと」
 こないだの晩から、ばけものは雨粒だと思いこんでいる与作は、全然恐くありません。
「だらしねえやつらだ。よし、おらがいって、こらしめてやる」
 与作がその晩、川っぷちに出かけていくと、草の中から気味の悪い声が聞こえてきました。
「・・・とっつくぞお、・・・くっつくぞお」
(全然こわくねえ。化けもんは、みな雨ん粒だから平気なもんだ)
 与作は、その気味の悪い声にむかって、
「ああ、とっつけや、くっつけや」
「・・・とっつくぞお、・・・くっつくぞお」
「ええとも、とっつけや、くっつけや」
 すると草がザワザワとゆれて、まっ黒けの奇妙(きみょう)なやつが出てきて、
「そんなら与作どん、おまえにくっつくから、おんぶしろ」
「しかたねえな。そら、背中につかまれや」
 与作が化けもんをおんぶして歩きだすと、チャリン、チャリンと音がします。
「おまえのからだはばかにかたいな。それにズッシリと重い。のう、雨ん粒おばけ」
「そうとも、おらはこれから与作どんの家で暮らすことにしたぞ」
 与作が化けもんを連れて帰ってくると、おかみさんは大喜び。
「まあ、おまえさん、こりゃ、まあ!」
 与作がおんぶしてきたものは、大きなかめで、その中にはなんと、ピカピカの小判がギッチリと詰まっていました。

おしまい

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