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        日本のふしぎ話 第11話 
         
          
         
夢見小僧 
       むかしむかし、あるところに金持ちのだんながいました。 
   正月の二日に、小僧たちを集めてたずねました。 
  「どんな初夢を見たか、ひとつ聞かせておくれ」 
   そこでひとりずつ話しましたが、いちばんちびの小僧だけは、ことわりました。 
  「あんまりいい夢だから、人には聞かせられねえ」 
   むかしからいい初夢は、人に聞かせてはいけないと言われています。 
  「よし、じゃ、その夢を買おう。百文(三千円ほど)、二百文。・・・えい、一両(七万円ほど)ならどうだ」 
  「いやです」 
   小僧がことわるので、だんなはカンカンに怒って、 
  「えいっ、こんな強情(ごうじょう)なやつは、海に流してしまえ!」 
  と、どなりつけました。 
  「これでも食って、どこへと行くがいい!」 
   小僧は、こなもちといっしょに、小舟に乗せられてしまいました。 
   小舟は風吹くままに、ユラユラ流れて沖へ出ました。 
   広い広い海を、どこまでも行きました。 
   すると、島が見えてきました。 
   島にあがると、たくさんのサルたちが小僧を見つけてやってきました。 
  「ウキッ、うまそうな人間だぞ」 
   サルたちが歯をむき出して、押し寄せてきました。 
   ビックリした小僧は、こなもちをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、サルが拾って食ベるまに、やっとのことで逃げ出しました。 
   サルの島をあとにして、小舟は波のまま、風のまま、海を流れていきました。 
   ズンズンいくと、また島が見えました。 
   近寄ると赤鬼、青鬼、おおぜいの鬼たちが、小僧を取り囲みました。 
  「おう、うまそうな人間だぞ」 
  「頭から食おうか、足から食おうか」 
   小僧は、またこなもちを投げましたが、鬼たちは見向きもせず、小僧につかみかかりました。 
  「おらを食うのは、ちっと待てやーい!」 
   小僧は叫びました。 
  「そのかわり、だんなにさえ教えなかった初夢を教えてやる。すごい初夢だぞ」 
  「よーし」 
  と、鬼たちは答えました。 
  「そんなら、とっとと話せ」 
  「話してやるが、鬼どん、おまえたちは、おらになにをくれる?」 
   そこで鬼たちは、りっぱな車を引いてきました。 
  「千里万里(せんりまんり)の車といって、わしらの宝だ。鉄棒で一つたたけば千里(四千キロ)、二つたたけば万里いくぞ。これでどうだ」 
   小僧がわざとしぶい顔をして見せると、今度は二本の針を持ってきました。 
  「この針で刺すと、元気なやつもすぐに死んでしまう。だが、死にそうなやつを刺すと元気になる。この宝もやろう」 
  「よし、いいだろう」 
   小僧は針を受け取ると、車にヒョイと飛び乗って、鉄棒で一打ちしました。 
   車はピューンと走りだし、あとに残った鬼たちは、涙をこぼしてくやしがりました。 
   車は空をひとっ飛びして、おりた所は広い田んぼです。 
   小僧はも一つ、車を鉄棒で打ちました。 
   すると、大きな橋の下に出ました。 
   そこで車をおりて、近くの茶店に入りました。 
   茶店でもちを食べていると、となりの屋敷の門から、おおぜいの人が出たり入ったりしています。 
  「となりじゃ、なにか変わったことでもあるのかね?」 
   小僧が茶店の人にたずねると。 
  「へえ、なんでも、ひとり娘のおじょうさんが病気で、今にも死にそうだということですだ」 
   小僧はさっそく、となりの屋敷へ行きました。 
  「オホン。わたしが、娘さんの病気をなおしてあげよう」 
   小僧が娘さんにチクリと針を刺すと、娘さんはたちまち元気になりました。 
   それを見て、家じゅう大喜びです。 
  「おまえさまは娘の命の恩人ですだ。どうか、うちの息子になってくだされ」 
   屋敷のだんながたのみました。 
  「ああ、いいよ」 
   それから小僧が、毎日ごちそうを食ベて楽しく暮らしていると、川向こうの金持ちの家でも娘が病気になり、ぜひ、なおしてくれと頼んできました。 
   小僧はまた、針を刺して娘さんを元気にしてやりました。 
   その家でも大喜びです。 
  「娘の命の恩人ですだ。どうか、うちの息子になってくだされ」 
  と、頼みました。 
  「それでも、おらのからだは一つだもの。二軒の息子にゃ、なれねえ」 
   すると金持ちのだんなは、二軒の家の間の川に、金の橋をかけてくれました。 
   そこで小僧は、お日さまの光で虹のようにかがやく橋を渡って、1ヶ月の半分をこちら側、あとの半分を川向こうの家で過ごすことになりました。 
   小僧の見た初夢とは、ふたりの娘の間にかかる虹のような金の橋を、渡る夢だったのです。 
      おしまい 
         
         
        
       
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