心があたたまる 日本の恩返し話 ☆福娘童話集☆ 童話・昔話・おとぎ話の福娘童話集
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日本の恩返し話 第19話

うぶめにもらったかいりき

うぶめにもらったかいりき

 むかしむかし、ある北ぐにの町に、こんなうわさがひろまっていました。
「お城のおほりばたの、ふるいやなぎの木のあたりに、あかんぼうをだいた、うぶめのばけものがあらわれるそうじゃ」
 うぶめというのは、あかちゃんをうむときに、死んでしまった女の人のおばけです。
「いつも、両手(りょうて)であかんぼうをだいているため、みだれたかみの毛をととのえることができん。そこで、とおりかかった人に、『かみの毛をととのえるあいだだけ、あかんぼうをだいていてもらいたい』と、たのむんじゃ。ところが、このあかんぼうも、おそろしいばけもの。だかれているうちに、ズンズン大きくなって、ついには人をのみこんでしまうのだと。くわばら、くわばら」
 うわさがひろまると、町の人たちは夕方から戸をしめて、はやくねるようになりました。
 そのため、お城のおほりばたは、よるになるとだれひとりとおるものがありません。
 そんなあるばんのこと。
 お城のようじで、かえりのおそくなったさむらいが、はやく家にかえろうと、おほりばたをとおりかかりました。
 なまえを左内(さない)といいます。
 左内は体が小さいことから、
「ちびすけ左内」
と、なかまにからかわれていました。
 ところが、左内は度胸(どきょう)があり、いつもおちつきはらっていました。
 だから、うぶめのおばけがあらわれるというおほりばたも、へいきであるいていきました。
 左内があるいていくと、
「もし、おさむらいさま」
 おほりばたの、ふるいやなぎの木の下から、白いきものすがたの女が、あかんぼうをだいてあらわれました。
(これがうわさにきく、うぶめだな)
 左内はあわてず、おちつきはらっていいました。
「なにか、わしに、ようでもあるのかな?」
「はい、かみの毛をととのえるあいだだけ、ちょっと、この子をだいていただくわけにまいりませんか」
「そんなことなら、おやすいごよう。ゆっくりと、かみをとかすがよい」
 左内は、うぶめからあかんぼうをうけとりました。
 あかんぼうは、かわいい女の子です。
 口には、おしゃぶりをくわえていました。
「なかなか、めんこいあかんぼうじゃな。よしよし、ほらほら」
 左内があかんぼうをあやしていると、だんだん、おもたくなっていきました。
 からだもグングンと大きくなって、石のようなおもさです。
 あかんぼうのかおつきは、からだが大きくなるにつれて、おそろしくなってきました。
 いまにも、左内にくいつきそうです。
「これはいかん!」
 左内は刀をぬくと、やいばをあかんぼうにむけて、口にくわえました。
 あかんぼうはさらに大きくなりましたが、刀のやいばにじゃまされて、こんどは小さくなりました。
 そして、大きくなったり小さくなったりを、なんどかくりかえしました。
 刀のやいばがなければ、あかんぼうは、ひとおもいに大きくなって、左内におそいかかったにちがいありません。
 そのうちに、うぶめが、
「ありがとうございました。おかげで、このように、かみをととのえることができました」
と、ほほえみました。
 みだれていたかみの毛が、きちんと、ととのえられています。
 うぶめは、あかんぼうをうけとると、
「おれいに、なにをさしあげましよう」
と、左内にたずねました。
「いや。べつにれいなどいらんが」
 左内がことわろうとすると、うぶめはニッコリして、
「お気づきでしょうが、わたしはこの世の者ではありません。どんな願いもかなえられます」
「そうか。では、遠慮なしに」
 左内は少し考えてから言いました。
「わしはごらんのとおり、ちびすけ。なかまから、わらいものにされている。なにかもらえるなら、カをさずかりたいな。三十人力でも、五十人力でもよい」
 左内がたのむと、
「それならば、五十人力をあげましょう」
 うぶめはそういって、フッときえました。
 しばらくたった、ある日のこと。
 お城に、江戸のすもうとりがやってきました。
 すもうのだいすきな殿さまが、よびよせたのです。
 殿さまは、けらいにいいつけて、すもうとりたちとすもうをとらせました。
 けれど、だれひとりかてません。
 あいてがすもうとりとはいえ、さむらいがコロコロとなげとばされて、なさけないかぎりです。
「だれか、かてるものはおらんのか?」
 そこで左内が、
「それがしが、やってみましょう」
と、きものをぬいだので、殿さまも、ほかのけらいたちもビックリです。
「左内ではむりむり。大けがどころか、死んでしまうぞ」
 殿さまがとめましたが、左内は、ふんどしひとつで土ひょうにあがると、いちばんつよいすもうとりとたたかって、
「どりゃあ!」
 頭よりも高く、すもうとりをもちあげました。
 そして、
「そりゃあ!」
 大きなすもうとりを、ドスーン! と、なげとばしたのです。
「みごと! みごと! あっぱれじゃ!」
 殿さまは大よろこびです。
「左内よ。ほうびとして、さむらい大将にしてやろうぞ」
 こうして左内は、えらいさむらいにとりたてられたということです。

おしまい

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