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百物語 第六話
死ぬのはこわい
青森県の民話
むかしむかし、陸奥の国(むつのくに→青森県)のある村に、万次郎(まんじろう)という、とても気のよわい男がいました。
村のだれかがなくなると、今度は自分かもしれないと、いつもビクビクしているのです。
ある日万次郎は、死んだおじいさんから聞いた話を思い出しました。
「一月十六日のま夜中に、人に見つからないように家の屋根にのぼれば、その年に死ぬ人の運命がわかる」
と、いう話しです。
(もしかして、自分の運命がわかるかもしれない)
死ぬのがこわくてたまらない万次郎は、つぎの年の一月十六日、家のみんなが寝るのを待って、こっそり屋根へのぼりました。
「おおっ、さむい」
万次郎はガタガタふるえながら、あちこちを見回しました。
どの家も明りがきえていて、物音一つ聞こえません。
と、そのとき、村の一本道をゆっくりとこっちへ近づいてくるものがあります。
白い着物を着て、ひたいに三角の白い紙をつけた死人です。
(ゆ、ゆうれい!)
万次郎はビックリしましたが、でもよく見ると、それは近くの家にすむ老婆(ろうば)でした。
若者と一緒に畑仕事をしたり、まごの世話をしたりと、元気な働き者として知られていました。
この前もあったばかりで、死んだなんて話しは聞いたことがありません。
万次郎は不思議そうに、屋根の上から老婆を見ていました。
老婆はまるでたましいのぬけたような顔で、トボトボと歩いていきます。
(いったい、どこへいくのだろう?)
万次郎の家の前をとおりすぎた老婆は、やがて村はずれの墓場(はかば)の前へいき、そのままけむりのようにきえてしまいました。
(さてはあのおばあさん、今年死ぬのだろうか?)
万次郎が首をひねっていると、こんどは近くの家から、おなじように死人の衣装(いしょう)をつけた娘が出てきました。
(あっ、あの娘は!)
万次郎は、もう少しで声を出すところでした。
村でも評判の美しい娘でしたが、病気になってからは寝たきりといううわさです。
娘も村はずれの墓場の前で、けむりのようにきえてしまいました。
(はたして、あの二人は今年中に死ぬのだろうか?)
そう思うと、おそろしくて人に話すこともできません。
でも万次郎の思った通り、まもなく老婆も娘も死んでしまいました。
万次郎は、いよいよ死ぬのがこわくなりました。
それでも毎年、一月十六日がくると屋根にのぼって、今年はだれが死ぬかをたしかめるのでした。
さて、ある年のことです。
今年も一月十六日の夜に屋根にのぼって下を見ていたら、なんと、そこにあらわれたのは死人の衣装をつけた自分でした。
(そっ、そんな、バカな!)
万次郎はビックリして、息が止まりそうになりました。
もう一人の万次郎は屋根の上の万次郎には目もくれず、ゆっくりゆっくりと墓場のある方へ歩いていきます。
やがて墓場の前にくると、けむりのようにきえてしまいました。
万次郎は屋根からかけおりると、家の者をたたきおこしていいました。
「ああ、おらは死ぬ!」
家の者はビックリして、
「何をバカな事を。なにか悪い夢でもみたのだろう」
「いいや、夢じゃねえ! 実はな・・・」
と、今までの事をみんなにうちあけましたが、
「はん。そんな事、だれが信じるものか」
と、いって、だれもとりあってくれません。
それから万次郎は今まで以上にビクビクして暮らし、その年の秋、突然死んでしまったのです。
万次郎の事は村のうわさになりましたが、だれもがこわがって、一月十六日の夜がきても屋根にのぼる人はいなかったという事です。
おしまい
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