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日本のふしぎ話 第20話
龍神さまの掛軸
茨城県の民話
むかしむかし、ある村の平吉(へいきち)という男が、一本の掛軸(かけじく)を手に入れました。
この掛軸にえがかれているのは、雷のイナズマの中を天にのぼる墨絵(すみえ)の龍(りゅう)でした。
「この龍はのぼり龍といって、天にかけのぼる勢いがあるので、とても縁起(えんぎ)の良い絵なんだ。持っていると、きっと良いことがあるにちげえねえ」
と、平吉は一人でよろこんでいました。
そしてこの掛軸を床の間にかけて、野菜や米と、毎朝くみたて水をさかずきに入れて、おまいりしているのでした。
ある朝のこと、いつものようにさかずきの水を取りかえようとすると、水がすっかりなくなっているのに気がつきました。
はじめはだれかがこぼしたのだろうと、あまり気にしませんでしたが、次の日も、その次の日もなくなっているのです。
「まさか、この龍神(りゅうじん)さまは水を飲まねえだろう。なにしろこの体だ、もし飲むとすれば少なすぎる。・・・でも、もしそうなら、少し大きい茶わんにかえてやるとするか」
と、冗談(じょうだん)のつもりで、一回り大きな茶わんに水を入れることにしたのです。
ところが次の朝、茶わんを見ると、水はたしかになくなっていたのです。
おどろいて家の者たちに聞いても、だれも知らないといいます。
「龍神さまが飲んだとすれば、この龍は生きていることになる。・・・まさかな。きっと、ネズミかネコが飲んだにちがいない。・・・でも、もしもと言うことがあるな」
その日の夜、平吉は寝ないで見張っていたのですが、次の朝、いつのまにか水がなくなっていたのです。
「しまった、いつの間に! ・・・よし、見ていろ!」
そんなことが毎日続いたのですから、平吉の目は血走り、ほおはくぼみ、まるで病人のような顔つきになりました。
さて、ある夜のことです。
平吉が今日もがんばっていると、うす暗いあんどんの光りを受けて、龍神さまが長い舌で水をなめている姿がボンヤリと見えたのです。
平吉はビックリして、その日から寝込んでしまいました。
それで心配した家の人は、平吉にないしょで、この掛軸を別の人にゆずってしまったのです。
この掛軸をゆずり受けたのは、利平次(りへいじ)という男です。
利平次は平吉の事は何も知りませんから、この掛軸を神だなのわきに下げると、うれしそうに毎日ながめていました。
そのころ村は、日照りつづきでこまっていました。
利平次は龍神さまは雨ごいの神であると聞いていたので、ある日、だれにも見られないようにして、
「どうぞ、雨を降らせてください。せめて、おらの田畑だけでも」
と、自分勝手な願いごとを言って、お神酒(おみき→神前にささげるお酒)をあげていのりました。
するとその日の夕方、空はにわかに暗くなり、激しい雨とカミナリがおこったのです。
昼寝から目をさました利平次は、滝のようなすさまじい雨とカミナリのあまりのすごさのに、その場で気を失ってしまい、そのまま寝込んでしまったのです。
この話は、村中にひろがり、
「あの掛軸を一人で持つと、とんでもねえことになるだ」
と、村人が集まって、この掛軸を村の神社におさめることにしました。
そしてその掛軸を龍神さまとして、うやまうことにしたのです。
すると寝込んでいた二人の病人も、日に日に良くなっていったという事です。
おしまい
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