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日本のふしぎ話 第22話
八人浦島物語
富山県の民話
むかしむかし、黒部谷(くろべだに)の山里に、とても碁(ご)のすきな八人の男がいて、毎日ひまさえあればパチリパチリと、碁石(ごいし)を打っては楽しんでいました。
ある日のこと、いつものように碁をしていると、一人の老人がやってきて、
「わしも碁がすきでな。一つ打たせてはくださらないか?」
と、頼んだので、
「ああ、いいですよ」
と、仲間に入れると、これがなかなかの腕前で、一番強いといわれる男とやっても、まったくひけをとりません。
老人はそれから毎日くるようになり、みんなと碁を楽しんでいました。
一年ほどたったころ、八人の男たちは老人の家にまねかれました。
老人の案内で谷をすぎ、崖(がけ)や淵(ふち)を渡っていくと大滝(おおだき)の前に出ました。
「この滝の中に隠れ道がある。わしに続いて滝をくぐってくだされ」
老人がこういってヒラリと滝をくぐったので、村人たちも続いてくぐり抜けると、岩の洞穴(どうくつ)がありました。
その中を進んでいくと、りっぱな黒門(くろもん)に囲まれたご殿(てん)が見えました。
それが老人の家で、男たちは人びとに出迎えられて奥座敷(おくざしき)に通されると、たいへんなごちそうのもてなしを受け、そのあと碁をして遊びました。
夜は夜で、絵のように美しい娘たちが三味線(しゃみせん)、胡弓(こきゅう)、尺八(しゃくはち)を伴奏(ばんそう)にしておどり、天にものぼる心地です。
そのような日を過ごして二日後、村人たちは家に帰ることにしました。
老人は、名残りをおしみ、
「それでは、世にもめずらしいごちそうをさし上げましょう」
と、いって、頭と顔が人間で、胴がタイのような人魚の料理を出しました。
気味悪く思った村人たちは、それを食べるふりをして紙につつみ、もときた道をたどって滝の外に出ると、紙づつみの魚を川にすてました。
さて村に帰ると、たった二日のはずが、なんと二年もの月日がたっていたのです。
ところで、八人の中でただ一人、紙づつみを持ち帰った男がいました。
その家の娘がそれと知らずに紙づつみの魚を食べたところ、何年たっても若わかしく、なんと三百歳まで長生きしたという事です。
それはきっと、不老不死の薬と言われる、人魚の肉を食べたためでしょう。
それからあの老人は、二度と村には姿を見せませんでした。
おしまい
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