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百物語 第八十話

殿さまをおそったネコ

殿さまをおそったネコ
東京都の民話

 むかしむかし、江戸(えど→東京都)に有馬(ありま)という殿さまの屋敷がありました。
 ある年の春の夜、殿さまが便所(べんじょ)へ行っての帰り、おぼろ月をながめながら渡り廊下を歩いていると、何者かが後ろからかけよってきて、いきなり肩に手をかけました。
「何者!」
 殿さまがふりむいた時、相手は両手で殿さまの首をしめつけてきたのです。
 それは屋敷では見たこともない老婆(ろうば)で、髪をふり乱し、キバをむいて首をしめつけてくるのです。
 老婆とは思えない力で、殿さまの顔はみるみる血の気がなくなっていきました。
 しかし殿さまはあわてるようすもなく、その手をはらいのけるなり、わきざしをぬいて老婆に切りつけました。
「フギャーー!」
 老婆は叫び声のかわりに、無気味なうなり声を残して走りさりました。
 それを聞きつけた見まわりの家来が、明かりを持ってかけてきました。
「殿、いかがなさいましたか?」
「何者かが、わしの首をしめようとしたので、切りつけたら逃げていきおった。わしは大丈夫だから、いたずらにさわぐでないぞ」
 殿さまはそれだけ言うと、なにごともなかったように部屋へもどっていきました。
 翌朝、殿さまは家老(かろう)を呼び出してたずねました。
「家来の中で、まだ出仕(しゅっし→つとめに出ること)していない者はないか?」
「なにか、ゆうべの事と、かかわりでもあるのでしょうか?」
と、家老は聞きかえしましたが、殿さまはそれ以上、なにも言いませんでした。
 家老が調べてみると、同じ家老仲間である角田要助(つのだようすけ)という男が、まだ出仕していないことがわかりました。
 すぐに、角田の家へ使いを出したところ、
「じつは昨夜、母親が急病で倒れて、いまもって起きることができないのです。すぐ医者をよびよせたが、どういうわけか母は部屋にひきこもり、まわりにびょうぶを立てめぐらしたまま、だれも中へ入れてくれずに、こまっています」
と、言うのです。
 家老はそのことを、すぐ殿さまに伝えました。
 すると殿さまは、ただちに要助(ようすけ)をよび出して、ゆうべの出来事を伝えました。
「では、その老婆がわたくしの母ではないかと?」
 要助が、顔色を変えてたずねると、
「いや、そうだと言っているのではない。ただ世間(せけん)のうわさでは、化け物が老人にとりつくことがあるという。そちの母も、とくと気をつけよ」
「・・・かしこまりました」
 おとなしくひきさがったものの、要助はふゆかいです。
 いくら殿さまといっても、家来の母を化け物あつかいするとはあんまりです。
 この上は母の容体(ようたい)を見きわめて、殿さまに申しひらきをしなくては気がおさまりません。
 要助は家にもどるなり、母の寝ている部屋にかけつけました。
「だれじゃ?」
 中から、母の声がします。
「どうしても、母上の容体を見とどけたくて、参りました」
「ならぬ! たとえわが子でも、中へ入ることを許さん。早くたちされ!」
「しかし、母上にもしものことがあればどうなります。ご病気なら医者にもみせなくてはなりません」
「心配はいらん。二、三日休んでいれば、きっとよくなる」
「ですが」
「ならぬと言っておるだろう!」
 要助がいくら頼んでも、母は中へ入ることを許してくれません。
(あの心優しい母が、これほどまでにこばむとは。・・・これはもしかして、殿の言う事が本当かもしれない)
 がまんできなくなった要助は、戸を開けて中へ飛び込みました。
 いくえにも立てめぐらしてあるびょうぶを押しのけ、母の寝ている枕元(まくらもと)へ立つと。
「これほど言っても、まだわからんのか!」
 母はこわい顔で、下から要助をにらみつけました。
「ごめん!」
 要助はいきなり、母の布団(ふとん)を引きはがしました。
 すると布団には、黒ぐろと血のあとがついているではありませんか。
 ハッとして母を見たら、右の肩に大きなけがをしていて、着物の上まで血がにじみ出ています。
「これは、ひどい」
 その時、要助の頭に、殿をおそう老婆の姿が浮かびました。
(しかし、まさか母上にかぎって。それにそもそも、殿をおそう理由もないではないか。だが、それにしても、なぜ大けがをかくすのだ?)
 要助には母のあやしげな態度が、どうしてもなっとくできませんでした。
「どこで、こんな大けがをしたのです」
 要助があらためて母にたずねると、母はだまったまま、要助をにらみつけます。
 目がらんらんと光り、いまにもとびかからんばかりです。
 いかに病気とはいえ、こんな恐ろしい母の顔を見たのははじめてです。
(もはやこれまでだ。もし本当に母上であったなら、自分も腹を切って母のあとを追おう)
 要助はかくごを決めると、を抜いて母に切りつけました。
「ギャオォォォー!」
 すさまじい叫び声をあげて起きあがろうとするところを、要助は胸元めがけて力いっぱい刀をつきさします。
「なんてことを」
 さけび声を聞いてかけつけてきた家の者たちは、腰をぬかさんばかりにおどろきました。
 要助は刀を持ったまま、ぼうぜんと母の死骸(しがい)を見つめていました。
 すると不思議な事に、母の体はだんだんと形がくずれてきて、やがてネコの姿が現れたのです。
 そこには、頭からしっぽの先まで三尺(約一メートル)ほどもある古ネコが、血まみれになって死んでいたのです。
「やっぱり、バケモノであったか」
 家の者たちは、あまりの出来事に声もでません。
 やがて気をとりなおした要助は、家の者たちに、
「この事は、決してよその者に言うではないぞ」
と、念を押してから、殿さまの屋敷へ出かけました。
「角田要助(かくたようすけ)、殿の眼力(がんりき)には、ほとほと感服(かんぷく)つかまつりました」
 うやうやしく頭をさげてから、これまでの事をくわしく報告しました。
 すると、殿さまは、
「やはりそうであったか。だがこの事は、決して他人にもらすでないぞ。母は病死ということにして、よきにはからえ。・・・それから、バケモノとはいえ、母の姿をしたものに刀を向けるのはつらかったであろう。すまぬ、どうかゆるしてくれ」
と、家来の要助に頭を下げたのです。
 要助はあらためて、殿さまの思いやりに感謝しました。
 ふたたび家にもどった要助は、家の者に命じてネコの死骸(しがい)をかたづけて、母の部屋の床下をほらせてみました。
 要助の思ったとおり、床下からはガイコツになった母が出てきました。
 骨のようすから見て、数年はたっています。
 うかつにも母を食い殺したネコを、今まで本当の母と思ってつくしてきたのです。
「母上、どうぞお許しください」
 要助は一つ残らず母の骨をひろって、骨(こつ)つぼにおさめました。
 要助の母が死んだというので、おくやみの客が次々とやってきました。
 せめてもの供養(くよう)にと、近くの寺で盛大(せいだい)な葬儀(そうぎ→そうしき)を行い、殿さまもわざわざ葬儀にやってきて、要助の母をねんごろにとむらったという事です。

おしまい

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