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百物語 第八十一話
娘に化けた大ウナギ
山梨県の民話
むかしむかし、甲斐の国(かいのくに→山梨県)にウナギ沢という沢があって、そこにはたくさんのウナギがいました。
ある年の事です。
近くの寺でお祭りがあり、若者が集まってお酒を飲んでいたところ、話しが盛り上がって、ウナギ沢のウナギをとろうということになりました。
「しかしな、一匹や二匹をとったところでおもしろくもない。一度に何百匹もとる方法はないだろうか?」
だれかがそう言うと、一番年上の若者が、
「あるぞ。毒まんじゅうをウナギ沢に投げこめば、ウナギはみんな浮いてくる。あとはそれをひろうだけだ」
と、言ったのです。
「なるほど、そいつはうまい手だ。よし、みんなで根こそぎウナギをとってしまおう。町へ売りに行けば、たいしたかせぎになるぞ」
酒のいきおいも手伝って、集まっていた若者たちはみんな賛成しました。
「ではさっそく、毒まんじゅうをつくろう」
一番年上の若者は、家にもどって毒の粉を持ってきました。
それぞれが土で泥のダンゴを作ると、毒の粉をダンゴにまぜて毒まんじゅうの出来上がりです。
するとそこへ、見たこともない娘がやってきて、
「お前たち、バカな事をするもんじゃない! そんな事をしたらウナギ沢のウナギばかりか、魚まで死んでしまうじゃないの!」
と、言ったのです。
「たしかに、お前さんのいうとおりだ。よしわかった。毒まんじゅうを沢に投げこむのは考えなおそう。それより今日はお祭りだ。お前さんも一緒に酒を飲んでいけ」
「おら、酒は飲めない」
「ならば、ごちそうでも食べていけや」
若者たちは娘がきたのを喜んで、毒まんじゅう作りをやめると娘をもてなしました。
娘は、出されるものをつぎつぎとたいらげると、
「ああ、すっかりごちそうになってしまって。そんなら、毒まんじゅうはもうつくらんでくれよ」
と、お礼をいって出ていきました。
さて娘がいなくなると、一番年上の男がいいました。
「ふん、どこの娘か知らんが、よけいな事をいいおって。さあ、早く毒まんじゅうをつくってしまおう」
「そうとも。グズグズしていたら、日がくれてしまうぞ」
若者たちは毒まんじゅうを袋につめると、大喜びでウナギ沢へと向かいました。
今日は祭りの日というので、沢には魚を釣る人もおらず、シーンと静まりかえっています。
「そろそろ、始めるぞ」
若者たちは毒まんじゅうをつかんで、沢へ投げ込みました。
やがてしばらくすると、ウナギや魚が次々と水面に浮かんできて、よろよろと泳ぎまわったあと、白い腹を見せたまま動かなくなってしまいました。
「やったぞ!」
若者たちは沢にとびこむと、ウナギや魚をつかんで岸へとほうり投げました。
用意したカゴは、たちまちウナギや魚でいっぱいになりました。
「さて、ひきあげるとするか」
若者たちがカゴをかついで立ちあがろうとしたら、太さが二寸(約六センチ)、長さが六尺(一尺は約百八十センチ)もある大ウナギが水面に浮かんできたのです。
「なんともでっかいウナギじゃ。かば焼きにすれば、あれ一匹で何十人前もあるぞ」
喜んだ若者たちは大ウナギをつかまえて、数人がかりで岸へと運びあげました。
そしてほかのウナギと一緒に、みんなで大ウナギをかつぐと、一番年上の若者の家へもどっていきました。
そして、この大ウナギを料理して、みんなで食べようという事になったのです。
「よし、いくぞ」
一番年上の若者が、包丁(ほうちょう)で大ウナギの腹をさきました。
すると、
「なんだ、これは!」
なんと大ウナギの腹の中から、あの娘が食べたごちそうが次々と出てきたのです。
これには、さすがの若者たちもビックリです。
「さっきの娘は、この大ウナギが化けたものにちがいない。この大ウナギは沢の主じゃ。こんな物を食べたらばちがあたるぞ」
若者たちはとってきたウナギや魚を投げすてて、大あわてで家にかえって行きました。
そんな事がうわさになり、若者たちはもちろんのこと、近くの村の人たちも、だれ一人ウナギ沢へ魚を取りに行く人はいなくなったという事です。
おしまい
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